運動に重要な脚のバネの硬さ、筋線維による調節メカニズムは不明
東京大学は3月12日、ジャンプ動作中の「脚のバネ」を調節する筋肉と腱の連携メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院総合文化研究科博士課程の栗山一輝氏、竹下大介准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Applied Physiology」に掲載されている。

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走行やジャンプなどの運動中に、ヒトの脚はバネのような振る舞いを見せることが知られている。脚全体がバネとして機能する際の硬さを「脚スティッフネス」と呼び、脚スティッフネスが高いほどより速い動作が可能になる。
これまでの研究で、脚スティッフネスは動作の速さに応じて適切に調整されるということが示されている。特に、その場での連続ジャンプ(ホッピング)中の脚スティッフネスは、主に足関節のスティッフネスによって決まることがわかっている。足関節のスティッフネスは、腓腹筋(ふくらはぎの筋肉)の活動パターンによって調節されていると考えられているが、この筋肉内部の筋線維が脚スティッフネスを調節するメカニズムはこれまで明らかになっていなかった。
腓腹筋の筋線維と腱組織の相互作用を定量的に分析
今回の研究では、実験の参加者に、できるだけ膝を伸ばし接地時間が短くなるようにホッピングを実施してもらい、超音波画像診断装置を用いて、腓腹筋内側頭の筋線維の動きを可視化した。同時に、三次元動作解析システムやフォースプレートを用いて、体の動きや発揮される力も測定した。
得られたデータは、筋線維を「収縮要素」、腱組織を「直列弾性要素」として、筋-腱複合体を2つの直列に繋がったバネで表現したモデルを用いて分析した。また、超音波画像から実測した筋線維の長さ変化データから、ジャンプのテンポの変化に伴う筋-腱複合体の力学的特性を定量的に評価した。
脚スティッフネスは「負のスティッフネス」効果によって実現される
その結果、ジャンプのテンポが上がると、筋線維は力が増加する局面で短縮するようになることが明らかになった。通常、バネは力を受けると伸びるが、筋線維はむしろ増加する力に逆らって縮む「負のスティッフネス」という特性を示していた。この「負のスティッフネス」は、通常のバネの法則とは逆の振る舞いを意味し、力が増加する際に長さが減少するという特殊な性質だ。これによって筋-腱複合体全体のスティッフネスが高まり、結果として脚スティッフネスも高くなっていた。これが、速いジャンプに必要な短い接地時間と高い脚スティッフネスを実現するためのメカニズムだと考えられた。
ロボットや義足、スポーツなどへの応用にも期待
筋-腱複合体のスティッフネスを収縮要素と弾性要素の相互作用として定量的に理解する同研究のアプローチは、ホッピングだけでなく、走行やジャンプ、着地などのさまざまな動作における筋線維のダイナミクスがもつ機能的な意義を理解するための新たな枠組みを提供するもの。身体の運動を生み出す源である筋線維のダイナミクスの観点から、運動パフォーマンスを理解する方法としてさらなる発展が期待される。
「今回の研究で明らかになった知見は、異なる力学的性質が求められる動作にも柔軟に適応できるロボットや義足の設計への応用が期待され、従来のロボットにはない、生体のような柔軟性と効率性を兼ね備えた動作機構の開発に貢献できる可能性がある。また、スポーツにおいては、個々の身体的特性に基づいた最適なランニングの歩幅や接地時間を身につける指導法の開発に応用でき、効率的なランニングフォームの実現に役立つと考えられる」と、研究グループは述べている。
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