妊婦約7.5万人の血中金属濃度と子の溶連菌感染症の発症を解析
北海道大学は3月7日、妊婦の血中金属濃度と生まれた子どもの4歳までの溶連菌感染症の発症について解析した結果を発表した。この研究は、同大エコチル調査北海道ユニットセンターの岩田啓芳特任准教授、岸玲子特別招へい教授らの研究チームによるもの。研究成果は、「PLoS One」に掲載されている。

子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査である。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにしている。エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施している。
溶連菌感染症は、発症後に心血管合併症を引き起こすリスクのある疾患。その正確な環境リスク要因の解明は、未だ発展途上である。金属暴露は、多くの疾患発症との関連が指摘されており、現在でも盛んに解析が行われている。
今回の研究では、胎児期の金属のばく露が溶連菌感染症発症のリスクに影響を与えるかどうかを評価することを目的として、解析を行った。同研究ではエコチル調査に参加した妊婦7万4,434人から採取した血液中の5種類の金属(水銀、カドミウム、鉛、マンガン、セレン)濃度を測定するとともに、当該妊婦から平成23(2011)年〜同26(2014)年の間に生まれた子ども(2万5,256人)の3~4歳までの1年間に注目して解析した。その結果、溶連菌感染症を発症した子どもは6,021人(約8.8%)だった。解析方法は回帰分析とし、複数ある金属物質の混合効果の影響も評価した。
セレン濃度「高」で溶連菌感染症の発症率「低」、妊娠中セレン摂取を推奨するものではない
研究の結果、今回の研究において、解析に用いたセレンの濃度が高い場合に溶連菌感染症の発症率が低いという結果を認めた。
なお、同研究は母体のセレン濃度と溶連菌の関係のみに絞って解析した結果であり、他の感染症との関係は評価されていない。また、同研究は妊娠中の母体から提供頂いた一回限りの採血結果に基づいており、同研究の結果のみをもって、妊娠中のセレンの摂取を推奨するものではない。妊娠中のセレン高濃度は中毒・有害作用が生じるため、注意が必要だ。
今回、解析対象としたセレン並びに金属と溶連菌感染症発症との総合的な関連については今後も引き続き検討が必要である。これにより、子どもの発育や健康に影響を与える金属等の環境要因が明らかになることが期待される、と研究グループは述べている。なお、今回の結果は、妊娠中の母体の血中金属濃度とその子どもの溶連菌感染症発症との関連を解析したものであり、溶連菌感染症を発症した子どもの血中金属濃度の測定は行っていないとしている。
▼関連リンク
・北海道大学 プレスリリース