加齢による睡眠の質低下、マルチタスク運動で改善するか?
筑波大学は3月13日、認知行動と身体活動を組み合わせたマルチタスク運動が、運動後の前頭前野の活性化を介して、女性高齢者の睡眠の質を改善させることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大体育系の大藏倫博教授(国際統合睡眠医科学研究機構:WPI-IIIS)らの研究グループによるもの。研究成果は、「NeuroImage」に掲載されている。

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深い睡眠中には脳波の振幅が大きくなり、δ(デルタ)パワーと呼ばれるゆっくりした波長(0.75~4.00Hz)が観察される。デルタパワーは、睡眠が深いほど出現量が増加することから、睡眠の質を定量的に表す指標として注目されている。一方、加齢とともに睡眠構造は悪化し、高齢者は若齢者に比べて深い睡眠(デルタパワーの出現量)の割合が減少する。
睡眠中のデルタパワーの出現量は、体を使う身体活動や頭を使う認知活動によって増強されることが知られている。したがって、身体活動と認知活動を組み合わせた、いわゆるマルチタスク運動によって睡眠改善に対するさらなる効果が期待される。そこで今回の研究では、マルチタスク運動が高齢者の睡眠の質に与える影響を明らかにすることを目的として、単調な運動との比較を行った。
女性高齢者を対象にマルチタスク運動の効果を検証
睡眠の質は、ホルモンの変化、特に性別によって影響を受けやすい。同研究では対象者を女性に限定し、「医師から運動制限を受けてない」「睡眠障害と診断されてない」「睡眠薬を服薬してない」「65~79歳である」の条件を満たす高齢者を機縁法により募集した。
茨城県つくば市在住の高齢者15人(平均72.8±3歳)を対象に、低強度の(1)単調な運動、(2)マルチタスク運動、中強度の(3)単調な運動、(4)マルチタスク運動、比較対象(コントロール試行)としての(5)安静座位、の計5つの試行条件をランダム順に行う無作為化クロスオーバー試験を行った。各対象者は、全ての試行条件をそれぞれ最低1週間の間隔をおき、約6週間かけて実施した。単調な運動としては踏み台昇降運動を、マルチタスク運動としてはスクエアステップエクササイズを採用した。また、低強度は最大心拍数の35~40%、中高強度は60~70%と設定した。
低強度のマルチタスク運動が睡眠の質を改善
運動前後に前頭前野の活性化を計測し、各試行条件による脳の活性度を比較したところ、低強度のマルチタスク運動後に前頭前野の活性化レベルが有意に高まることが示された。また、睡眠ポリグラフ検査を用いて睡眠中の脳波データを取得し、デルタパワーの出現量を算出した結果、低強度のマルチタスク運動を実施した時に出現量が多くなることを確認した。さらに、低強度のマルチタスク運動による前頭前野の活性度が高くなるほど、睡眠中のデルタパワーの出現量も多くなることがわかった。
高齢者の睡眠を改善する運動プログラム開発につながる可能性
今回の研究により、高齢者における低強度のマルチタスク運動の実践が、運動後の前頭前野の活性化を介して睡眠中のデルタパワーの出現量を増強することが明らかになった。
「高齢者の睡眠改善策として、マルチタスク運動という新たな形態の運動プログラムの有効性が示された。ただし、今回の知見は睡眠の質に対するマルチタスク運動の一過性の効果を示すにとどまっており、今後さらに長期的な効果の検証が求められる」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL