ポリファーマシーの解消はスムーズに進まない場合も多い
筑波大学は3月12日、薬局薬剤師のアサーティブネスが、安全な薬物治療を目的とした処方の適正化と関連することを明らかと発表した。この研究は、同大医学医療系の小曽根早知子講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Research in Social and Administrative Pharmacy」にオンライン掲載されている。

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多くの疾患を抱える傾向にある高齢者は、服用する薬の種類も多くなることがある。多くの薬を服用することで、副作用のリスクや薬物間相互作用のリスクが高まった状態を「ポリファーマシー」と呼ぶ。安全に薬を使用するにはポリファーマシーの解消に向けた取り組みが重要になる。
ポリファーマシーの解消には医師や薬剤師などの医療従事者が協力し、患者の体調や希望を考えながら判断する必要がある。特に薬局の薬剤師は、患者の薬の状況についてよく知っているため、医師に薬剤数の削減や代替薬の使用など処方の変更を提案する役割を担っている。日本では2018年に、薬局薬剤師から処方医への提案により薬剤数の削減がされた場合に薬局へ報酬が支払われる制度(服用薬剤調整支援料)もできた。しかし、実際には薬局薬剤師と医師の間で意見が伝わりにくく、ポリファーマシーの解消がスムーズに進まないこともある。
他者を尊重しつつ感情や要望を率直に自己表現する「アサーティブネス」に着目
自己表現のスタイルとしては、自己を後回しにする非主張的な自己表現、自身の考えを押し付ける攻撃的な自己表現、それらのどちらでもなく相互理解を深めようとするアサーティブな自己表現の3つがある。アサーティブネスは、他者を尊重しつつ自分の感情や要望を率直に自己表現するコミュニケーションスタイルであり、攻撃性とは異なるものと定義されている。研究グループは今回、このアサーティブネスに着目して研究を実施した。
これまでの薬局薬剤師を対象とした研究で、アサーティブな自己表現が高い薬剤師ほど、医師に提案した処方変更の頻度が多いことがわかっている。しかし薬剤師のアサーティブネスが、自らが医師に提案して薬剤数の削減につながった経験にどのように影響しているのかは明らかではなかった。
薬剤師963人の自己表現スタイルと服用薬剤調整支援料1を得た経験との関連を調査
研究グループは2022年5~10月に、日本の10都道府県の薬局で働く薬剤師3,446人を対象にアンケート調査を実施し963人から回答を得た。その中で、過去1年間に服用薬剤調整支援料1(薬局薬剤師が薬剤数の削減の提案を医師に行った結果、医師が2種類以上の薬剤の中止を決定し4週間経過観察後に薬局が受け取れる報酬)を得た経験があるかを尋ねた。
また、Interprofessional Assertiveness Scaleを用いて、アサーティブネスに関連する薬剤師の自己表現スタイルを(1)自己を後回しにする非主張的な自己表現、(2)自身の考えを押し付ける攻撃的な自己表現、(3)それらのどちらでもなく相互理解を深めようとするアサーティブな自己表現、の3つの要素で評価した。そして、薬剤師自身の提案によって医師が処方薬剤数を削減した経験があるか(過去1年間に服用薬剤調整支援料1を得た経験があるか)との関連性を検証した。
非主張的/攻撃的な自己表現は、医師の処方する薬剤数削減決定に影響を与えにくい
その結果、薬剤師のアサーティブな自己表現の高さと、自身の提案によって医師が処方する薬剤数が削減される経験が関連していたことがわかった(オッズ比1.49、p=0.042)。この結果は、医師の状況を尊重しつつ、医師との相互理解を深めようとする薬剤師のアサーティブな自己表現が、医師に処方する薬剤数を減らす決定を促すことを示している。一方で、主張性の低い非主張的な自己表現や自分の考えを押し付ける攻撃的な自己表現では、医師が処方する薬剤数削減の決定に影響を与えにくいと考えられた。
薬剤師のアサーティブネス向上が医師の処方する薬剤数削減に寄与する可能性
今回の研究では、薬剤師からの提案による薬剤数削減が実現するか否かは、医師に対する薬剤師のアサーティブな自己表現と関連することが明らかになった。しかし、薬剤数削減の提案内容や医師の専門分野や経験などが、薬剤師による提案の受け入れやすさにどのように影響するのかは十分に検証されていない。
「今後、薬剤数削減の提案の実態を解明し、薬剤師のアサーティブネスを向上させる取り組みが医師の処方する薬剤数の削減に寄与するかを明らかにする必要がある。これらをふまえ、薬剤師が医師と協力して薬剤数の削減を進める方策を検討することが求められる」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL