食物アレルギー患者尿にはtetranor-PGDMが排泄、それ以外の脂質メディエーター動態は?
東京大学は3月7日、食物アレルギー患者の尿からプロスタグランジンD2(PGD2)代謝物を含む19種類の脂質代謝物が検出され、それらがアレルギー反応の指標となる可能性を示唆したと発表した。この研究は、同大大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻の益子櫻博士課程学生(研究当時)、濱端大貴修士課程学生(研究当時)、石井健博士課程1年、永田奈々恵特任講師、獣医学専攻の村田幸久准教授、国立成育医療研究センターアレルギーセンターの稲垣真一郎医師、山本貴和子室長、福家辰樹診療部長、大矢幸弘センター長(研究当時)、杏林大学医学部小児科学教室の成田雅美教授、国際医療福祉大学医学部臨床検査の下澤達雄教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical & Experimental Allergy」に掲載されている。

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食物アレルギーは、主に小児に多く発症し、食物摂取後の即時型アレルギー反応を引き起こす疾患。診断には食物経口負荷試験(OFC)が標準的に用いられるが、アナフィラキシーショックなどの有害反応を誘発するリスクがある。そのため、安全かつ客観的な診断法の確立が求められている。アレルギー反応の過程では、肥満細胞が活性化され、大量の脂質メディエーターを産生する。特にPGD2は即時型アレルギー反応において重要な役割を果たし、その代謝物であるtetranor-PGDMが尿中に排泄されることを研究グループは報告してきた。しかし、食物アレルギー患者の尿中におけるtetranor-PGDM以外の脂質メディエーターの動態は明らかにされていない。
OFC前後における尿中脂質プロファイルで食物アレルギー反応を評価
今回の研究では、食物アレルギー患者の尿中脂質プロファイルを網羅的に解析し、OFCによるアレルギー反応が尿中脂質に与える影響を評価することで、新たな診断バイオマーカーの探索を目的とした。同研究では、国立成育医療研究センターアレルギーセンターにて、食物アレルギーに罹患している疑いがある小児を対象にOFCを実施。OFC前(pre)およびOFC後4時間(post)の尿サンプルを採取した。対象は42人で、そのうち31人がOFC陽性(食物アレルギー患者)と判定された。尿中脂質メディエーターの網羅的解析には、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)を用いた。
PGD2代謝物やLT、TXA2などの炎症関連脂質がOFC陽性患者で顕著に増加
解析の結果、19種類の脂質代謝物が検出され、OFC陽性患者の尿では、PGD2の代謝物であるtetranor-PGDM、13,14-dihydro-15-keto-tetranor-PGD2、tetranor-PGJMの増加が確認された。また、炎症マーカーであるトロンボキサン(TX)Aの代謝物11-dehydro-TXB2もOFC陽性群で有意に上昇していた。さらに、ロイコトリエン(LT)E4、酸化ストレスマーカーである8-iso-PGA2、オレイン酸由来のオレオイルエタノールアミド(OEA)などの脂質もOFC後に増加した。一方で、リノール酸(LA)代謝物9-KODEや13-HODEはOFC後に減少し、アレルギー反応の進行に伴う脂質代謝の変化が観察された。
今回の研究では、食物アレルギー患者の尿中脂質メディエーターの包括的なプロファイルを明らかにし、OFC後に特定の脂質が増加または減少することを示した。特に、tetranor-PGDMをはじめとするPGD2代謝物やLT、TXA2などの炎症関連脂質がOFC陽性患者で顕著に増加しており、これらの脂質がアレルギー炎症のバイオマーカーとして有望であることが示唆された。また、リノール酸代謝物の減少や、酸化ストレスに関連する脂質の変動も、食物アレルギーの病態形成に何らかの影響を及ぼす可能性がある。
非侵襲的な診断マーカーとして応用に期待
尿は、小さな子どもからでも容易に採取できるため、非侵襲的な診断マーカーとして応用が期待される。また、現在研究グループはtetranor-PGDMに対する検査キットの開発を進めており、他のマーカーについても検討を進めていき、より精度の高い診断・治療技術の開発に努めたい、としている。
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