高齢者の身体状態の指標、従来の筋肉量には疑問の声も
筑波大学は3月7日、体組成計の計測データから筋肉の質を示す指標(筋細胞の状態や細胞外内の水分比率)を評価すると、要介護化リスクが高い高齢者を予測できることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大体育系の大藏倫博教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nutrition」に掲載されている。

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高齢化が世界的に加速する中、高齢者の機能低下や要介護化の予防は喫緊の課題だ。個人がアクティブで豊かな生活を送るため、さらに増大する社会保障費や医療負担の抑制のためにも、リスクの高い高齢者を早期に発見し、支援することが重要になる。
簡単な身体状態の測定方法として、体組成計を用いた筋肉量の評価がある。しかし、近年の研究では、筋肉量と健康の関係性に疑問が呈され、「筋肉の質」にも注目する必要性が指摘されている。
体組成計による筋肉の質的評価、将来の要介護化リスクを予測できるか?
体組成計は、生体に微弱な交流電流を流し、その電気抵抗を計測する。複数の周波数の電流を流すことで、細胞膜の状態(phase angle)や細胞外内の水分比率を評価できる。これにより、筋肉の収縮に貢献する組織とそうでない組織、つまり「筋肉の質」を評価できるとされている。これらの指標は筋力、身体機能、転倒、フレイルなどとの関連が報告されているが、これらの研究のほとんどは、ある一時点における検討に留まっており、追跡調査により将来の要介護化リスクとの関連性を示す知見は限られていた。
高齢者における筋肉の質と要介護化リスクの関連を追跡調査
そこで今回の研究では、高齢者を対象とした長期追跡研究を行い、体組成計で評価した筋肉の質と将来の要介護化リスクとの関連性を検証した。
2011年から2019年まで茨城県笠間市で実施された体力測定会に参加した65歳以上かつ要支援・要介護認定歴がない858人(平均年齢73.9±5.4歳、女性53.7%)を対象に体組成計(TANITA 980-A model、TANITA)を用いて、全身および上肢と下肢の筋肉の質指標(phase angleと細胞外内の水分率)を算出した。比較のために、従来から利用されている筋肉量の指標(全身の除脂肪量と下肢の筋肉量指数)も評価した。笠間市の介護認定情報に関するデータベースを用いて、対象者を2023年まで追跡(最長12年、平均7.1年)し、要介護化(要支援1以上)の状況について調査した。
筋肉の質が低いと将来の要介護化リスクが高くなる、筋肉量は関連なし
分析の結果、男女の両方において、下肢の筋肉の質指標が不良である人は要介護化リスクが高いことがわかった。一方で、従来の筋肉量の指標は要介護化に対し、有意な関連を認めなかった。さらに、全身および下肢の各筋肉の質指標が中央値よりも不良である場合に要介護化リスクが高まることが明らかになった。また、それぞれの指標について、4年間と10年間のうちに要介護化しやすいかどうかを示す基準値を算出することができた。
要介護化予測の有用な指標、スクリーニングへの活用にも期待
今回の結果から、体組成計で評価できる筋肉の質指標(phase angle・細胞外内の水分率)は高齢者の要介護化予測に有用で、要介護化の予測という点では、従来の筋肉量の評価よりも優れた指標であることが示唆された。
「これらの指標の計算は容易で、phase angle については表示機能がある体組成計も多くある。体組成計は専門の測定者が不要で操作も簡単なことから、医療現場や地域の交流場に設置することで要介護化リスクが高い高齢者を効率よく大規模に把握することが可能になると期待される」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL