難聴は認知症のリスク、どのくらいの聴力から補聴器をすべきか?
慶應義塾大学は3月7日、55歳以降の補聴器の装用経験がない難聴者のグループにおいて、聴力閾値と認知機能検査の結果は負の相関関係を示し、4つの音の高さの聴力閾値の平均値が38.75 dB HLを超えた場合に認知症のリスクになり得ることを発見したと発表した。この研究は、同大医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室の西山崇経専任講師、大石直樹准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Aging」に掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
認知症は超高齢社会を迎えた日本において、経済・社会的に大きな問題となっているが、難聴は中年期における認知症の予防可能な最大のリスク因子であることが報告されており、注目を集めている。日本で2019年に発表された認知症施策推進大綱では、難聴は「特に予防介入や治療効果の評価に資するべき認知症の危険因子」と位置付けられている。難聴の主な原因は加齢であるため、現状では補聴器が治療の中心だが、どの程度の難聴になったら認知症予防として補聴器をすべきなのか、ということは今までわかっておらず、知らぬ間に認知症のリスクを抱えながら生活してしまう可能性があった。
55歳以上の難聴者を対象に聴力と認知機能の関係を調査
そこで今回の研究では、2022年9月から2023年9月までに慶應義塾大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科外来を受診した55歳以上で、両耳の4周波数(500/1,000/2,000/3,000Hz)における平均聴力閾値が25 dB HLを超えた難聴者のうち、補聴器の装用経験がないグループ(未装用群)55人と、3年以上にわたり補聴器装用を行っているグループ(長期装用群)62人の計117人を対象に聴力と認知機能の関係について検討した。認知機能検査は、日本語版Mini-Mental State Examination(MMSE-J)とSymbol Digit Modalities Test(SDMT)の2種類を用いた。
未装用群で聴力と認知機能に負の相関、認知症リスクは38.75 db HL以上で上昇
良聴耳(平均聴力閾値が小さい方の耳)の平均聴力閾値と認知機能検査の関係において、補聴器の未装用群では、平均聴力閾値と認知機能検査であるSDMTスコアの間に有意な負の相関関係を認めた。一方、長期装用群では、補聴器非装用時あるいは補聴器装用時に関わらず、平均聴力閾値とSDMTスコアの間に有意な相関関係は認められなかった。
また、既報に従ってSDMTスコア27.3%以下の場合を認知症のリスクありとみなし、receiver operating characteristic(ROC)解析を行ったところ、未装用群において平均聴力閾値38.75 dB HLが有意なカットオフ値であることがわかった。この結果は、未装用群の平均聴力が38.75 dB HL以上である場合、認知症のリスクを持つ確率が高い状態にあることを示す。一方、長期装用群においては、補聴器非装用時あるいは補聴器装用時に関わらず、認知症のリスクとなり得る平均聴力閾値の有意なカットオフ値は得られなかった。
適切な補聴器使用による認知症予防に期待
今回の研究により、補聴器未装用者において認知症のリスクとなり得る平均聴力閾値が示され、補聴器を長期装用することによって難聴による認知症のリスクが緩和されることが示唆された。「平均聴力閾値38.75 dB HLを超える症例に対して適切な補聴器診療を行うことで、認知症予防に貢献できる可能性がある」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・慶應義塾大学 プレスリリース