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向社会行動に関わる脳の新たな構造・機能的特徴を発見-神戸大ほか

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2025年03月17日 AM09:30

向社会行動の脳内メカニズム、解明には包括的なアプローチが必要

神戸大学は3月3日、向社会行動に関わる新たな脳の構造的・機能的特徴を発見したと発表した。この研究は、同大大学院人間発達環境学研究科の石原暢准教授、玉川大学脳科学研究所の高岸治人教授、松田哲也教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「eNeuro」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

自然災害時の相互支援や募金といった助け合いに見られる、人間に特有の利他性や協力行動の脳内メカニズムを明らかにすることは、向社会行動の進化的起源の解明に大きく寄与する可能性がある。これまで、単一の脳画像指標や向社会行動を個別に検討する研究は多くあったが、脳の構造と機能、そして多彩な向社会行動との関連を包括的に捉えた研究は不足していた。

15種類の経済ゲームとマルチモーダルMRIで向社会行動を多角的に解析

そこで、今回の研究では20~60代の217人を対象に、15種類の経済ゲームと構造・機能・拡散の3種類のマルチモーダルMRIによる指標を用いて解析を行った。

まず、囚人のジレンマゲームや信頼ゲームなど合計15種類の経済ゲームを匿名環境下で実施し、向社会行動を測定した。各ゲームでは、金銭的報酬を用いて他者への協力や公平性、罰行動など多様な向社会行動を客観的に評価した。

次に、同一参加者に対して構造MRI(T1・T2強調画像)、安静時機能MRI、拡散MRIといったマルチモーダルMRIデータを収集し、得られたデータを米国Human Connectome Projectのパイプラインを用いて前処理した。これにより、360の皮質領域と41の皮質下領域それぞれの皮質厚やミエリン密度、機能的・構造的ネットワークなど、多種多様な脳画像指標(計5,441項目)が得られた。

さらに、これらの脳画像指標と、15種類の経済ゲームから得られた行動指標(108項目)を用いて、多重正準相関分析により多対多の関係を包括的に解析し、向社会行動と脳画像指標との関連を検討した。

向社会性が高い人の脳の特徴が明らかに

マルチモーダルMRIのデータでは、向社会性が高い人ほど左右の脳半球をつなぐ機能的・構造的ネットワークが強く、特に脳梁(左右脳を結ぶ白質束)の体積が大きい傾向が見られた。さらに、皮質が厚く、ミエリン密度が低い(非髄鞘成分が増加している可能性を示す)という特徴も確認され、主に社会性に関わる領域(側頭頭頂接合部など)で顕著だった。以上の結果から、これらの領域が向社会行動において重要な役割を果たしていると考えられた。

加えて、脳のネットワーク特性を示すグラフ理論指標においても、高い局所効率と短い経路長(いずれも情報伝達の効率の高さを示す指標)が向社会行動と正の関連を示した。一方、攻撃や罰行動の傾向が高い場合には、これらの脳指標との関連は弱く、対照的なパターンが観察された。

教育やメンタルヘルスなど幅広い分野への応用にも期待

今回の研究によって、ヒト特有の向社会行動を支える神経基盤として、左右脳間の結びつきの強さ、社会性に関わる脳領域における効率性、および脳の解剖学的特徴が重要な手がかりであることが明らかになった。同研究の成果は、教育分野やメンタルヘルスなど幅広い領域への応用も期待される点で、社会性研究と脳科学の新たな接点を示す発見といえる。

「今後は、今回発見した神経基盤の加齢や発達段階による変化に着目し、特に小児期や思春期における脳梁やミエリン密度の変化と向社会行動との関連を検証する」と、研究グループは述べている。

 

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