需要増加が予想されるクロミフェン、原料は高価で大量生産には不向き
近畿大学は3月6日、排卵誘発剤として不妊治療で世界的に使用されている「クロミフェン」(商品名:クロミッド、一般名:クロミフェンクエン酸塩)を、最短2段階で合成する手法の開発に成功したと発表した。この研究は、同大理工学部理学科化学コースの松本浩一准教授、同大大学院総合理工学研究科の鈴木ひよの氏(博士前期課程修了)、博士前期課程1年の東郷茜音氏らの研究グループによるもの。研究成果は、日本化学会第105回春季年会でポスター発表される。

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排卵誘発剤であるクロミフェンは、不妊治療の際に世界中の産婦人科や不妊治療の病院、クリニックで活用されている。性腺刺激ホルモンの分泌を増やし、排卵を促す効果があり、自然に近い排卵での妊娠を希望する場合や、治療費用を抑えたい患者向けに選択される代表的な薬剤である。
クロミフェンは、1967年に米国食品医薬品局(FDA)に承認されて以降、幅広く製造され使われている。先行研究において単離収率を高めるいくつかの合成方法が開発されたが、原料が高価で、複数の工程を経て合成する必要があり、大量生産には不向きであることが知られている。今後、少子化の影響でますますクロミフェンの需要が増加することが予想されるため、より安価で収率の高い製造方法の確立が望まれている。
安価なテトラクロロエチレンの塩素原子を1個残し、クロミフェンを合成する方法を探索
研究グループは以前より、安価で入手が容易、かつ安定性と適度な反応性を有する化合物である「テトラクロロエチレン」に着目していた。2024年に、テトラクロロエチレンを原料として、発光物質であるホタルルシフェリンの短い工程での合成法を開発しており、この研究の中で、テトラクロロエチレンがクロミフェンの合成にも有用であることを発見した。クロミフェンには塩素原子が含まれているため、原料のテトラクロロエチレンの塩素原子を1個残してクロミフェンを合成できれば、独自性が高く安価な手法になると仮説を立てた。
テトラクロロエチレンから2段階のクロスカップリング反応を経てクロミフェン合成
そこで研究グループは、テトラクロロエチレンに対して、取り扱いが容易なフェニルボロン酸とパラジウム(Pd)触媒を用いた鈴木・宮浦クロスカップリング反応を行うことで、中間体となる「cis-1,2-ジクロロジフェニルエチレン」を合成した。これに、クロミフェンの部分構造のユニットを再度鈴木・宮浦クロスカップリング反応により連結させることで、2つの立体異性体(E体・Z体)が混ざったクロミフェンが得られることを見出した。一般的に販売されているクロミフェンはE体とZ体が混ざっているため、同様に混合した生成物が得られる手法は問題ないと考えられる。
2段階目の単離収率は17%、収率向上・コスト削減など目指す
「現在、2段階目の単離収率は17%なので、今後さらなる収率向上や、E体とZ体の比率の精密制御、コスト削減などの検討を行うことで、より安価で迅速なクロミフェンの工業的な製造の確立が期待できる」と、研究グループは述べている。
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