免疫チェックポイント阻害剤、優れた治療効果の一方でIrAEが課題
浜松医科大学は2月20日、免疫チェックポイント阻害剤の治療を受けたがん患者において、KL-6とSP-Dが免疫関連肺臓炎の診断に有用であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院腫瘍センターの柄山正人講師、内科学第二講座の中井省吾医師(大学院生)、須田隆文教授(当時、現理事・副学長)、放射線診断学講座の五島聡教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Respiratory Investigation」に掲載されている。

免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitors: ICI)は、近年のがん薬物治療における最大の革新であり、従来の抗がん剤をしのぐ有効性を示し、さまざまながん種で広く使用されている。現在も適応がん種の拡大、新薬や併用療法の開発が精力的に行われており、今後のがん薬物療法における中心的な薬剤として、さらなる期待を集めている。
ICIは自身の免疫細胞を介してがん細胞を攻撃するという、従来の抗がん剤とは大きく異なるユニークな仕組みで治療効果を発揮するが、一方で従来の抗がん剤では経験したことがない特殊な有害事象(副作用)が問題となっている。この有害事象は、患者自身の免疫が乱れることによって起きると考えられており、免疫関連有害事象(immune-related adverse events: irAE)と呼ばれている。優れた治療効果を示すICIの恩恵を享受するためには、irAEを克服することが非常に重要だ。irAEは全身のさまざまな臓器に起こることが知られているが、中でも免疫関連肺臓炎(immune-related pneumonitis: irP)は、発生率は5~19%、死亡率は2~27%と、頻度と重症度の観点から特に重要なirAEの一つとなっている。
irPは早期発見、確定診断が困難
irPの発症を予測することは困難であるため、早期診断と適切な治療を行うためには、ICI療法中の適切なモニタリングが重要になる。irPの発症中央値はICI治療開始後2~3か月とされているが、発症時期は治療開始後1週間未満から1年以上と幅広い。さらに、ICI治療の中断後にもirPが発症することも報告されている。そのため、ICI療法中だけでなく、中断後も含めたがん治療全体を通じてirPの発症に注意を払う必要がある。
irPのモニタリングには、症状の慎重な経過観察、身体診察、および画像検査が用いられる。しかし、irPは無症状であることも多く、胸部X線検査では検出が困難な場合があり、見逃されることもある。そのため、多様な手法を用いたモニタリングが、irPの早期かつ正確な診断には重要だ。
間質性肺炎マーカーのKL-6・SP-D、irPへの診断応用を検証
Krebs von den Lungen-6(KL-6)は、高分子シアル化糖タンパク質であり、Ⅱ型肺胞上皮細胞および呼吸細気管支上皮細胞によって産生される。また、サーファクタントプロテイン-D(SP-D)は、Ⅱ型肺胞上皮細胞によって産生・分泌される肺特異的糖タンパク質だ。KL-6およびSP-Dは、いずれも間質性肺炎のバイオマーカーとして知られ、疾患活動性の診断やモニタリングに広く使用されている。しかし、KL-6およびSP-DがirPの診断に有用であるかについての報告は、これまでのところ存在しなかった。
そこで研究グループは、KL-6およびSP-DのirP診断における有用性を評価するため、2014年9月から2023年10月にかけて、同大において2サイクル以上のICI治療を受けたがん患者をレトロスペクティブに解析した。
KL-6とSP-DはirPの鑑別診断、早期発見に有用
今回の研究で対象となった631人のうち、64人がirPを発症した。受信者動作特性(ROC)解析の結果、KL-6およびSP-Dの曲線下面積(AUC)は、それぞれ0.803および0.845と高い診断精度を示した。KL-6が500 U/mL以上の場合、irPの感度は65.6%、特異度は83.4%だった。SP-Dが110 ng/mL以上の場合、感度は66.7%、特異度は88.6%だった。KL-6が500 U/mL以上とSP-Dが110 ng/mL以上の両方を満たす場合、特異度は96.6%、感度は46.7%であり、irPの鑑別診断に適していると考えられた。KL-6が500 U/mL以上またはSP-Dが110 ng/mL以上のいずれかを満たす場合、感度は85.0%、特異度は75.5%であり、irPの早期発見のためのモニタリングにも適していることが示唆された。また、SP-Dの血中濃度はirPの重症度と有意に関連していた。一方、KL-6の血中濃度と重症度の関連は認められなかった。
irPのスクリーニングや確定診断への寄与に期待
現在、ICI治療は新たなステージに突入し、ICIと新規治療薬との併用療法の開発が盛んに行われている。また、ICIの適応がん種の拡大に加え、早期がんへの周術期治療にもICIが適応を拡大しており、ICIを使用する患者はますます増加することが見込まれる。
「これからの新時代のICI治療において、irPマネジメントの重要性はさらに高まると予想される。今後、irPの早期発見および鑑別診断において、本研究の成果が役立つものと期待している」と、研究グループは述べている。
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