心不全の予後と横隔膜の厚さは関連するのか?
順天堂大学は2月19日、高齢心不全患者を対象にした調査で、横隔膜が薄い患者は死亡リスクが高いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科循環器内科学の鍵山暢之特任准教授、末永祐哉准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JACC Cardiovascular Imaging」にオンライン掲載されている。

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心不全は高齢者に多く、運動能力や呼吸機能の低下と関連する疾患。近年、横隔膜が単なる呼吸筋ではなく、循環器系にも影響を与えることが注目されている。横隔膜が薄くなると、静脈還流の低下や自律神経の調整不全が生じ、心不全の進行に関与する可能性がある。しかし、横隔膜の厚さが心不全患者の予後にどのような影響を与えるかについては明確なデータがなかった。また、従来の心不全評価では、筋肉量や体力低下が考慮されてきたが、横隔膜の状態は十分に評価されていなかった。
高齢心不全患者における横隔膜の厚さを超音波で測定
今回の研究では、高齢心不全患者において超音波を用いた横隔膜厚の測定が可能かを検討し、その厚さが死亡リスクなどの予後と関連するかを調査した。対象は日本国内で実施されたSONIC-HF多施設研究の患者599人(平均年齢80歳)。全員が心不全の悪化により入院し、歩行可能な高齢者だった。
研究手法としては、超音波を用いて自然呼吸時と深呼吸時の横隔膜厚を測定し、年齢、体格、心不全の重症度、筋力(握力)、呼吸機能、心臓の状態などを評価した。平均2年間の追跡で死亡率を調べ、横隔膜の厚さとの関連を統計解析した。
横隔膜の厚さが独立した予後指標となる可能性を初めて示唆
その結果、呼吸時の横隔膜厚の中央値は2.9mmで、それ以下の患者(薄い横隔膜の群)は、高齢、低体重、心不全症状が重い傾向があった。また、横隔膜が薄い患者は死亡率が高く、統計解析の結果、この関連は年齢や心不全の重症度を考慮しても独立した予後因子であることが示された(横隔膜が1mm厚いごとに死亡リスク22%低下)。
以上の結果から、従来の心不全評価では全身の筋肉量や握力などの指標が用いられていたが、横隔膜の評価が新たな予後指標として有用である可能性が初めて示された。
横隔膜萎縮の予防・改善が新たな治療法となる可能性、若年患者等でも検証を
今回の研究の対象は日本の高齢者に限られていたため、若年患者や異なる人種の患者でも同じ傾向が見られるかを検証する必要がある。特に、異なる病態(心不全の種類や重症度)での横隔膜厚の役割を明らかにすることが重要だ。また、現在は成人の横隔膜厚に関する明確な基準値がないため、今後の研究で「どの程度の厚さが危険なのか」を明確にすることが求められる。これにより、臨床現場での活用がより進むと考えられる。
「今回の研究成果は、心不全評価に“呼吸筋の視点”を取り入れるための画期的な発見。今後は横隔膜トレーニングなどのリハビリへの応用を進め、患者のQOL向上に貢献できるよう研究を深めていきたい」と、研究グループは述べている。
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