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筋強直性ジストロフィー1型、繰り返し配列不安定性に関わる因子を明らかに-NCNP

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2025年03月03日 AM09:20

DM1患者由来iPS細胞で見られるDMPK遺伝子CTGリピート数の変化、メカニズムは未解明

)は2月17日、(myotonic dystrophy type 1:)の病態に関わる可能性のある新規因子を同定したと発表した。この研究は、同センター神経研究所疾病研究第五部の荒木敏之部長、加門正義研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Human Molecular Genetics」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

DM1は遺伝により世代を重ねるとより症状が重篤化することが知られる(表現促進現象)。ゲノム上でDMPK遺伝子のCTG繰り返し数が34回以上になっていると、減数分裂時にその長さが伸びることがあり、DM1の発症リスクのある子どもは親よりも長いリピート数を受け継ぐ可能性があることが原因であると考えられている。また、同一の患者においても、年をとるにしたがって、DMPK遺伝子のCTG繰り返し数が増大し、重症化する傾向があることも知られている。このような表現促進現象が起こる分子的なメカニズムを明らかにすることは、DM1の病態の理解と治療法開発の上で重要であると考えられるが、これまで、CTG繰り返し数の不安定性を、培養細胞や動物モデルで再現することは困難で、限られたモデルしか存在しなかった。

研究グループは以前、京都大学iPS細胞研究所、大阪大学との共同研究で「DM1患者の細胞から作出したiPS細胞は、増殖を繰り返すうちに、ゲノム上のDMPK遺伝子のCTG繰り返し数が変化し、平均的には繰り返し数が増加する傾向を示すとともに、異なるCTG繰り返し数をもつ多様な細胞が出現する」ことを示した。この現象は、DM1患者において知られている表現促進現象を再現しているとは言えないが、DM1患者に由来する細胞において観察されるCTG繰り返し数の変化であることは注目に値すると考えられた。しかし、そのメカニズムは明らかではなかった。今回、研究グループは、DM1患者由来iPS細胞におけるCTG繰り返し数の不安定性のメカニズムを明らかにすることを目指した。

もとの繰り返し数に関わらず培養継続で繰り返し数は増加、DNAメチル化状態にも差異なし

DM1患者由来iPS細胞は、分裂増殖に伴って、ゲノム上のDMPK遺伝子のCTG繰り返し数に多様性を生じることから、研究グループは、DM1患者1人の細胞検体から作出したiPS細胞から多数の細胞クローン(単一の細胞から増殖した細胞グループ)を分離採取し、CTG繰り返し数の異なる細胞どうしの間で、何が異なっているのかを検討した。しかし、CTG繰り返し数が相対的に少ないiPS細胞でも多いiPS細胞でも両者同様に培養継続に伴うCTG繰り返し数の増加傾向を示し、またCTG繰り返し配列周辺のDNAメチル化状態にも大きな差異はなかった。

繰り返し数変化少ない細胞クローンから、不安定性の制御に関連するZNF850遺伝子発見

このような検討を行う中で、研究グループは、多数の細胞クローンの1つに、分裂増殖の前後でCTG繰り返し数がほとんど変化しない細胞クローンがあることを見出し、このクローンの遺伝子発現の網羅的解析を行った。そして、このクローンにおいて発現が強く抑制されている遺伝子としてZNF850を同定した。

ZNF850遺伝子の、CTG繰り返し数の変化における役割を調べるため、CTG繰り返し数の増加傾向を示すDM1患者由来iPS細胞におけるZNF850遺伝子の発現を抑制したところ、CTG繰り返し数の増加傾向が抑制された。また、DM1患者由来iPS細胞にZNF850遺伝子を過剰発現したところ、CTG繰り返し数の増加傾向が促進されることがわかった。これらのことから、ZNF850遺伝子は、DM1患者由来iPS細胞におけるゲノム上でDMPK遺伝子のCTG繰り返し数の不安定性を制御する因子であると考えられた。

DM1患者のCTG繰り返し数、大きくなるに従ってZNF850遺伝子発現レベル高

ZNF850遺伝子は、1,090アミノ酸からなるZNF850タンパク質をコードしている。ZNF850タンパク質は、32回繰り返すC2H2型Zincフィンガー構造を持つが、そのほかには特徴的な配列はなく、これまでにこのタンパク質・遺伝子の機能に関する研究報告はない。また、これまでにDM1患者の骨格筋における遺伝子発現を、健常対照者骨格筋の遺伝子発現との間で網羅的に比較検討した多くの研究結果がデータベースに登録・公開されているが、ZNF850遺伝子の発現レベルは、DM1患者と健常対照者の間で明確な差異はなかった。しかしながら、DM1患者のうち、CTG繰り返し数の比較的少ない者と多い者の骨格筋におけるZNF850遺伝子の発現レベルを比較すると、CTG繰り返し数が大きくなるにしたがってZNF850遺伝子の発現レベルが高くなる傾向がみられた。

ZNF850タンパク質、繰り返し配列で機能するDNA修復関連タンパク質の足場となる可能性

これまでにCTG繰り返し数の不安定性にはゲノムDNAの修復に関連する酵素反応が関与していることが指摘されている。そこで、研究グループは、ZNF850とDNA修復関連酵素の関係について検討した。ZNF850はDNA修復酵素のうちDM1遺伝子のCTG繰り返し数の不安定性に関与しているという報告のあるMSH2、MSH3と結合している(ごく近傍に存在する)ことを示し、研究グループは、ZNF850タンパク質はCTG繰り返し配列に結合することも示した。

これらのことから、ZNF850タンパク質は、DNA修復関連タンパク質がCTG繰り返し配列を含むDNAの周辺にやってくる際の、いわば「足場」として機能し、DNA修復タンパク質がCTG繰り返し配列付近で働きやすくすることによって、CTG繰り返し数の不安定性を高めているのではないかと考えられた。

DM1以外の3塩基繰り返し配列異常にも関連する可能性

今回の研究では、ZNF850がDM1患者由来iPS細胞におけるCTG繰り返し数の不安定性に重要な役割を果たしていることを示したが、ZNF850が実際のDM1患者のCTG繰り返し数の変化にどういった役割があるかは、今後さらなる検討が必要である。

「DM1におけるCTG繰り返し配列のように、ゲノム上で3塩基繰り返し配列が存在し、その異常な伸長が、特に神経、筋肉の遺伝的な病気の原因となっている例がいくつもある。近年の次世代遺伝子シークエンス技術の進展によりそれらは明らかになっており、前述の『表現促進現象』はそれら3塩基繰り返し配列の異常な伸長が来す病気に共通する現象である。そのためZNF850はDM1以外の疾患の3塩基繰り返し配列の不安定性への影響も検討していく必要があると考える」と、研究グループは述べている。

 

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