胃がんは大腸がんなどに比べ、ctDNAの検出感度が低い
大阪大学は2月17日、胃がんにおいて、非侵襲的かつ高感度な新しい腫瘍マーカーを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科消化器外科学の黒川幸典准教授、永野慎之介氏(大学院生)、土岐祐一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
日本における罹患率および死亡率の高い3大がんの1つとして胃がんが挙げられる。その検査法として、現在では内視鏡検査やCT検査などが使用されているが、内視鏡検査は患者にとって侵襲的で苦痛を伴う検査であり、CT検査は放射線被曝ならびに胃がんに対する低い検出率(感度)が問題となる。血液を利用した腫瘍マーカー検査は低侵襲で簡便だが、前立腺がんに対するPSAのような胃がん特異的な腫瘍マーカーは存在しない。現在はあくまでも転移再発の補助診断として、さまざまながん種で汎用されているCEAやCA19-9などを利用しているが、これらの検出感度は切除不能なStage Ⅳの進行胃がんであっても50%以下に過ぎない。そのため、もっと検出感度が高く、的確に体内の腫瘍量を評価できるような非侵襲的な腫瘍マーカーの開発が求められていた。
そうした中、分子生物学的テクノロジーの進歩により、がん細胞の遺伝子変異の情報を元に、患者の末梢血中を循環している微量ながん細胞のDNA(ctDNA)を検出することが徐々に可能になってきた。このctDNAは、非侵襲的かつ簡便に測定可能な腫瘍マーカーとして利用可能とされ、近年世界中で注目されている。研究グループでは、これまでにも胃がんや食道がん、消化管間質腫瘍(GIST)において、末梢血中からctDNAを検出することに成功してきた。しかし、胃がんはその分子生物学的特性から、大腸がんや肺がんなどと比べてctDNAの検出感度が低いことが明らかとなっている。そのため、臨床の現場で用いるためには、さらなる改良を行ってctDNAの検出感度を上げる必要がある。
胃がんの早期発見・病勢モニタリング・予後予測の方法として、メチル化DNAに着目
研究グループは、ctDNAを検出する新たな方法として、従来のようにがん細胞の遺伝子変異の情報ではなく、後天的な遺伝子発現調節機構の一つであるDNAのメチル化に着目した。DNAのメチル化はこれまで、発がんや腫瘍進行のメカニズムに関与していることがわかっており、ほとんどのがん腫で早期の段階から高頻度に過剰なメチル化が生じている。この過剰なメチル化DNAをctDNAとして末梢血中で検出することで、胃がんの早期発見・病勢モニタリング・予後予測などに利用できるのではないかと考え、研究を開始した。
5遺伝子のメチル化DNAを特定、高値群の再発医がん患者は予後不良
胃がんに対して高感度にメチル化DNAを検出できる遺伝子を同定するため、これまで他がん腫においてメチル化との関連性が報告されている63遺伝子の中から、The Cancer Genome Atlas (TCGA)のデータベースを用いて胃がんでメチル化レベルの高い遺伝子を調べたところ、44遺伝子が選択された。さらに、同大病院の胃がん切除検体のがん部と非がん部10例ずつから抽出したDNAのメチル化レベルを次世代シークエンサー(NGS)で解析したところ、この44遺伝子の中でもSPG20、FBN1、SDC2、TFPI2、SEPT9の5遺伝子が、胃のがん部でのメチル化が特に亢進していることが判明した。
そこで同大病院で化学療法を施行中だった再発胃がん患者16人の末梢血を用いて、この5遺伝子のDNAメチル化レベルをNGSで解析し、メチル化がより亢進していた患者(高メチル化群)とそれ以外の患者(低メチル化群)との間で全生存期間を比較した結果、メチル化高値群は有意に予後不良であることが確認された。
5遺伝子のDNAメチル化レベル、従来の腫瘍マーカーより的確に体内の腫瘍量を反映
また、複数のタイミングで採血を行った症例に対しては、上記5遺伝子のDNAメチル化レベルの経時的推移を検討した。この患者はステージⅢの胃がんと診断され、術前に化学療法を施行する前に採取した末梢血中のDNAメチル化レベルは高値だった。しかし、術前化学療法終了後の手術前には半分以下にまで低下し、手術実施後や術後の補助化学療法を行っている間もDNAメチル化レベルは低値を維持していた。だが、その後DNAメチル化レベルは再上昇し、同時に腹膜に再発を来したが、この時点での2つの腫瘍マーカーCEAとCA19-9は正常値のままだった。
このように、研究グループが発見した5遺伝子のDNAメチル化レベルは従来の腫瘍マーカーよりも的確に体内の腫瘍量を反映しており、胃がんの早期発見・病勢モニタリング・予後予測などに利用できる可能性が示された。
DNAメチル化レベルを、デジタルPCRを用いてより簡便かつ安価に測定できる手法を開発中
今回の研究により、SPG20、FBN1、SDC2、TFPI2、SEPT9の5遺伝子の末梢血中DNAメチル化レベルが、体内の腫瘍量を的確に反映する新たな腫瘍マーカーとして利用できる可能性が示された。「本成果は現在特許申請中であり、この5遺伝子の末梢血中DNAメチル化レベルを、デジタルPCRを用いてより簡便かつ安価に測定できる手法を開発中」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・大阪大学 主要研究成果