アジア人の嚢胞性線維症、現状では対症療法のみ
関西医科大学は2月17日、世界で初めて日本人嚢胞性線維症患者のiPS細胞を樹立し、これまでに報告のない遺伝子変異を特定したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科イノベーション再生医学の服部文幸研究教授らの研究チームによるもの。研究成果は、「Genes & Diseases」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
常染色体劣性(潜性)遺伝である嚢胞性線維症(指定難病299)は、欧米人で3,500人に1人が罹患する患者数の多い疾患。これに対し、日本人を含むアジア人で35万人に1人と非常にまれ。嚢胞性線維症では、気管支、消化管、膵管などが粘り気の強い分泌液で詰まりやすくなる。粘り気の強い腸液のために生後数日経過しても胎便が出ず、腸閉塞になり、腹部の膨満と嘔吐を引き起こす。ほとんどの患者が、気管支炎や肺炎を繰り返す。痰のからむ咳が続き、細菌が感染すると膿のような痰が出ることもある。また、ほとんどの患者に副鼻腔炎が見られる。
欧米人患者の平均寿命は、2000年代初頭は20歳前後だったが、現在では60歳を超えている。これは、肺移植および患者の90%が欧米人に特有な遺伝子変異を持っていることから、この変異特異的に作用する薬剤の開発が成功したことなどが大きく寄与している。しかし、日本では臓器移植はドナー不足で難しい上、日本人を含むアジア人では欧米人に多い変異を持つ患者はまれであり、アジア人種に特有の変異を有するため、対症療法しか治療方法がない現状だった。
日本人患者由来のiPS細胞で原因遺伝子CFTRに新たな変異を同定
研究グループは、日本人の嚢胞性線維症患者由来の線維芽細胞(理研細胞バンクに1997年寄託)から、iPS細胞を樹立した。嚢胞性線維症の原因遺伝子であるCFTRの変異を調べたところ、これまでに報告のない1540del10 CFTRと呼ばれる変異のホモ接合体であることが判明した。
このiPS細胞を健常人由来のiPS細胞とともに肺上皮細胞様細胞へと分化させ、CFTRの発現や機能の詳細を解析した。その結果、患者iPS細胞由来の肺上皮細胞様細胞では、CFTRの機能が全く失われていることがわかった。また、変異細胞にはCaCCというCFTRに類似した機能を有するタンパク質の発現が認められた。このことから、CFTR以外の類似機能を有するタンパク質の機能を高める代替療法の可能性が示唆された。
アジア人特有の遺伝子変異に対する治療法確立に向けた一歩
今回の研究によって、初めて日本人嚢胞性線維症患者由来のiPS細胞が樹立され、これまで報告のないCFTR遺伝子変異が明らかになった。「今後のさらなる研究により、CFTR変異型に対して幅広く有効な革新的治療方法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・関西医科大学 プレスリリース