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月経痛の重症度を高精度に判別可能なバイオマーカーを特定-京大ほか

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2025年02月28日 AM09:10

、客観的に痛みの程度を伝えられない課題

京都大学は2月14日、健康な女性の血漿(血液の液体成分)を分析し、月経痛(生理痛)の重症度を客観的に示す「」を特定したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の杉浦悠毅特定准教授とライオン株式会社らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
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(いわゆる重度の月経痛)は、学校や仕事でのパフォーマンスを低下させ、日常生活全般にわたる活動に大きな支障をきたす。また、痛みの程度を客観的に周囲に伝えられないことに加え、次の月経痛の強さを予測できないため、社会的な孤立感や精神的なストレスが増大するリスクがある。また、多くの女性は、月経痛が重症化していても、その痛みが普通のことだと考え、適切な医療機関の受診を遅らせる傾向がある。これにより、潜在的な子宮内膜症や子宮筋腫といった婦人科疾患の発見が遅れる可能性がある。これらの問題を解決するためには、月経痛に関する正しい情報の理解に加え、早期診断・治療を可能とする新たなヘルスケア習慣が不可欠だ。しかし、痛みの個人差の重要性が認識されているにも関わらず、客観的な分子マーカーは確立されていないのが現状である。

月経痛の重症度判定バイオマーカーを探索、健康な女性20人の血漿メタボローム解析で

今回の研究では、血中(血漿)の代謝産物に着目し、月経痛の重症度を判定するバイオマーカーの探索を試みた。同研究では、健康な女性20人(平均年齢31歳)を月経痛の軽い人(12人)と重い人(8人)に分け、指先から採取した血漿のメタボローム解析を行った。メタボローム解析では、質量分析装置を用いて、アミノ酸や脂質といった分子を網羅的に解析することが可能だ。

分岐鎖アミノ酸と特定の脂質の量比で、月経周期に関係なく重症度を高精度に判別

メタボローム解析の結果、月経痛の重さに応じた有意な代謝変動が生じていることを確認。中でも、親水性代謝物(アミノ酸など)と脂質(リン脂質など)が月経痛の重症度の判別に寄与していることがわかった。さらに、分岐鎖アミノ酸(BCAA)と、特定の脂質(フォスファチジルイノシトール(PI))が有望なバイオマーカーであることが示唆された。

これらの代謝産物による月経痛の重症度の判別精度を高めるため、代謝産物の比率を計算し検証した。その結果、単独の代謝産物と比較して優れた判別精度を有することを確認。また、これらの比率は、月経周期における3つの期間いずれにおいても、主観的な痛みの評価結果と正の相関を示し、月経周期に関係なく一貫して高い判別精度を示した。加えて、これらの比率は、同じ試験参加者における追加の月経周期2周期においても相関性を維持した。このことから、BCAAと特定のPIの量比は月経痛の重症度を判別するために有効な指標であると考えられる。

わずかな量の血漿で評価可能、月経痛の予測などでQOL向上に期待

これまでにも月経痛の重症度を判別するためのバイオマーカー研究は数多くなされてきた。しかし、測定される代謝物の分類や、月経周期のさまざまな期間における検体採取のタイミングに一貫性がないため、確度の高いバイオマーカーの特定には至っていない状態であった。今回、参加者の指先から採取したわずかな量の血漿を用いたメタボローム解析法を確立し、月経周期における3つの期間を通した代謝産物を解析することで、月経痛の重症度を高い精度で判別できるバイオマーカーの発見に成功した。

従来は「痛みの個人差」によって周囲の理解が得にくい状況があったが、客観的な数値に基づく評価ができれば無理な我慢をする必要がなくなる上に、周囲のサポートも得やすくなる。そして、医療機関への受診や専門家からの適切な支援を受けるきっかけになると考えられる。また、生理が始まる前の時期に測定し、次の月経痛がどれほど強いかを予測できれば、鎮痛剤を事前に準備できたり、予期せぬ強い月経痛に対する心の負担が軽減されたりする。月経痛がひどい背景に疾患が隠れているケースもあるため、早期発見にもつながると考えられる。さらに、バイオマーカーを用いたヘルスケアアプローチが広まれば、一人ひとりの痛みや体調に合わせた対策がとりやすくなり、人々のQOLを高める可能性が期待される、と研究グループは述べている。

 

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