術後ctDNAからの予後予測は既報告、術前血液からも予測できるか
慶應義塾大学は2月17日、食道がん原発巣と血液中の遺伝子変異を照合する診断技術(リキッドバイオプシー)を用いて、手術前の血液中から食道がん由来の循環腫瘍DNA(Circulating tumor DNA, ctDNA)を検出することにより微小残存病変(MRD)の有無を判定し、食道がんの予後を予測できることを発見したと発表した。この研究は、同大医学部外科学教室(一般・消化器)の小林亮太助教、松田諭専任講師、川久保博文准教授、北川雄光教授、がんゲノム医療センターの中村康平専任講師、西原広史教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Journal of Surgical Oncology」に掲載されている。

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食道がんは、早期より広範にリンパ節転移をきたす予後不良な疾患として知られている。遠隔転移がない進行食道がんの標準治療は、術前化学療法+手術となっているものの、一部の患者では術後再発をきたし、その後の成績は十分ではない。MRDの有無を判定し、術後治療の選択やフォローアップ検査の方針、ひいては手術を行うかの判断に際して用いることができるバイオマーカーの開発が求められている。ctDNAは、血液中に存在するがん由来の断片化されたDNAとして知られており、がんの診断や予後予測のバイオマーカーとして注目されている。現在、国内外から複数の手法が報告されているが、いずれも開発段階であり、がんの種類によらず、手術患者の予後予測という目的において、薬事承認、保険適応が得られた方法はない。
2023年に研究グループは、食道がん原発巣と血液中の遺伝子変異を照合する診断技術を用いて、食道がん患者の手術後のctDNAが食道がんの予後を予測できることを発見している。この手法を用いて、食道がん患者の手術前の血中ctDNAによる予後予測手法としての有用性を検討した。
術前化学療法+手術済の患者血液サンプルからTP53のさまざまな部位を検出
研究では、術前化学療法+手術を施行した食道がん患者25人の治療前の食道がん組織と血液サンプルを用いて手術前後の血清サンプルを解析した。治療前に血液中から検出されたctDNAの部位を検討したところ、食道がんにおいて最も遺伝子変異が高頻度で生じるTP53遺伝子のさまざまな部位が、血中から検出されていることが明らかとなった。これは、次世代シーケンサーという各遺伝子全体を評価対象とする研究グループの手法が重要である可能性を示唆している。
術前化学療法が奏効した患者は、手術前の血中ctDNA陰性の頻度が高い
次に、治療前と術前化学療法後(手術前)の血中ctDNAの変化を観察した。25人中12人において、術前化学療法後(手術前)に血中ctDNAが検出感度以下(陰性群)となっていた。そして、血中ctDNAの変化と術前化学療法の奏効を比較したところ、術前化学療法が奏効した患者において、術前化学療法後(手術前)の血中ctDNA陰性群の頻度が高いことが確認された。
術前化学療法後(手術前)の血中ctDNA陽性、無再発生存期間・全生存期間が有意に短い
最後に、術前化学療法後(手術前)の血中ctDNAの有無と再発、生存期間の関連を検討したところ、血中ctDNA陰性群と比較して、陽性群は無再発生存期間、全生存期間が有意に短いことが示された(3年無再発生存率:92% vs 8%,p=0.049)。これらの結果は、手術前の血中ctDNAが精緻に術後の再発を予測可能であることを示唆している。
先進医療として評価中、食道がん治療の個別化の指標となることに期待
この手法をいち早く薬事承認、保険適応につなげることを目的とし、同大病院では、2024年6月より先進医療「血中ctDNAを用いた微小残存病変量の測定」を開始している。また、全身の腫瘍量を反映するこの手法と、放射線画像検査や内視鏡検査などを併用することにより、さらなる精度向上を目指して研究を進めている。
「食道がんに対する手術前後の血液中のctDNAにより、手術後の再発リスクが精緻に評価可能であることが示された。術後再発リスクが高い患者を特定することで、再発防止のための追加治療や継続的なモニタリングの強化が患者ごとに適切に実施され、最終的には患者の生存率向上が期待される。さらに今後、手術前に実施される化学療法などの効果がさらに高まることが想定されており、手術前の血中ctDNAの結果に応じて、手術切除範囲の縮小や手術回避が可能な患者選択にもつながる可能性があり、食道がん治療の個別化の指標となることが期待される。現在実施中の評価療養(先進医療A)の結果、この検査が保険収載された場合には、より多くの食道がん患者に適応となることが期待される」と、研究グループは述べている。
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