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脂肪肝・肝硬変の原因として、分子モーターKIF12の機能不全を同定-順大ほか

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2025年02月25日 AM09:20

脂肪肝は肝硬変・肝細胞がんのリスクだが、治療薬は確立されていない

順天堂大学は2月7日、KIF12と呼ばれるキネシン分子モーターの遺伝子変異により、脂肪肝炎の症状が起こるメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学研究科の廣川信隆特任教授(兼 東京大学名誉教授・客員研究員)と東京大学医学研究科の田中庸介講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「EMBO Journal」に掲載されている。


画像はリリースより
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先進国では人口の3割に脂肪肝が見られ、生活習慣病として大きな問題となっている。これまで脂肪肝は良性の病気と考えられていたが、一定の割合で肝細胞に炎症を生じ、肝臓の線維化による肝硬変や肝細胞がんをもたらすため、治療が必要であることが認識されてきた。しかし、その画期的な治療薬は、まだほとんど開発されていない。

ヒト肝硬変家系において、分子モーターKIF12の遺伝子変異を同定

細胞内で物質を運ぶ役割を持つKIF12の遺伝子変異は、これまでも胆汁うっ滞症の患者で検出されていたが、肝硬変や脂肪肝炎との関係やその分子メカニズムは全くわかっていなかった。また、患者の変異を導入したマウスも作られていなかったため、患者のゲノムに同時に存在する他の遺伝子の変異や環境要因により病気が起こった可能性も否定できていなかった。

研究グループは、イスラエル・パレスチナの共同研究チームから情報提供を受け、KIF12の遺伝子変異を持つ肝硬変の3つの家系について解析した。いずれからも、KIF12タンパク質の機能を損なう変異をホモ接合で持つ患者が確認された。これらの患者では、肝脾腫や肝臓の線維化が見られ、若年での死亡が多かった。

KIF12の変異は脂肪肝炎を引き起こすことをマウスで確認

研究グループは今回、患者で見られたKIF12タンパク質中央部のナンセンス変異を、ゲノム編集(CRISPR/Cas9法)でマウスに導入した。この変異マウスのホモ接合体では、若年で脂肪肝炎の組織像や、血液生化学における肝疾患マーカーの数値の上昇がみられた。

KIF12が肝細胞への脂肪蓄積を防ぐメカニズムを解明

次に、ヒト肝臓由来のHepG2細胞でKIF12の発現を欠失させると、細胞質に脂肪滴が蓄積することを見出した。この蓄積は、KIF12タンパク質から「耳」のように突き出たPRDドメインを導入すると解消されたため、KIF12タンパク質のPRDドメインが脂肪肝炎を食い止めるのに必要十分なはたらきを果たしていることがわかった。

PRDドメインに結合するタンパク質を生化学的な手法で探索すると、脂肪酸合成酵素であるアセチル-CoAカルボキシラーゼ1(ACC1)と、ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)が同定された。さらに、肝細胞でKIF12の発現を欠失させると、ACC1のユビキチン化による分解が遅くなり、ACC1の発現量が増加していることがわかった。また、超解像顕微鏡を用いた観察により、KIF12、ACC1、ACC1のユビキチン化酵素COP1の三者は、微小液滴を作り互いに重なってしていることを確認した。

最後に、培地に脂肪酸を添加すると、HepG2細胞でKIF12タンパク質の発現量が低下することを確認した。つまり、脂肪を取りすぎるとKIF12の発現が低下し、中性脂肪の合成が盛んになることで、脂肪肝を悪化させる引き金になる。この結果から、生活習慣との因果関係も示唆された。

・肝硬変の治療への応用に期待

今回の研究から、KIF12が肝細胞において脂肪合成酵素の分解を直接的に促進して脂肪合成を抑制し、脂肪肝炎を回避する分子メカニズムが明らかになった。メタボ状態ではKIF12の発現が低下し、この分子メカニズムが障害を受けることで、さらに肝臓への脂肪蓄積が進むものと考えられる。「今後、KIF12の機能を保つ手法の開発により、脂肪肝・肝硬変の治療に道を拓きたい」と、研究グループは述べている。

 

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