アストロサイトは神経機能回復にどう貢献する?分子メカニズムは?
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は2月12日、脊髄損傷(Spinal cord injury:SCI)後の神経回路の修復を促進させるメカニズムに、アストロサイトに発現するHeterogeneous nuclear ribonucleoprotein U(Hnrnpu)が関わることを見出したと発表した。この研究は、同センター神経研究所神経薬理研究部の村松里衣子部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Neuroinflammation」にオンライン掲載されている。

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日本では、年間約5,000人の脊髄損傷患者が発生しているといわれている。損傷部位に応じて、手や足が動かなくなったり、感覚が麻痺するなどの症状が現れたりして、寝たきりや車いすの生活となることで日常生活に大きな影響が及ぶ。これらの後遺症を緩和させる方法のひとつとして、損傷により傷ついた神経回路を修復させることが有望と期待されている。最近の研究で、損傷部位の周囲に備わるアストロサイトという細胞には、神経機能を回復させる役割もある可能性が指摘されている。しかし、アストロサイトがどのように神経機能の回復に貢献するか、その分子メカニズムには不明な点が多くあった。損傷後、アストロサイトはまず増殖を開始することが知られている。そのため、アストロサイトの増殖に関わる分子を見出すことで、二次的に、神経回路に対する保護効果を発揮するメカニズムの探索につながると研究グループは考えた。
内因性増殖維持因子Hnrnpu、発現阻害で脊髄損傷後のアストロサイト増殖を阻害
今回の研究では、マウスを用いた実験により、アストロサイトの増殖に関わる分子のスクリーニング試験を実施。Hnrnpuが内因性の増殖維持因子であることを見出した。また、Hnrnpuには、損傷を受けたアストロサイトの特徴である分子発現の変動にも影響する作用があった。脊髄損傷モデルマウスでは、Hnrnpuの発現を阻害すると、損傷後のアストロサイトの増殖が阻害された。
アストロサイトHnrnpu発現阻害、脊髄損傷後の軸索再生・運動機能回復を抑制
アストロサイトのHnrnpu発現を阻害した脊髄損傷マウスは、損傷部周囲の神経線維の数が、対照群と比較して少なくなった。また、損傷後の運動機能の推移を観察した。その結果、アストロサイトでHnrnpuの発現を阻害させたマウスでは、運動機能の回復が阻害された。さらに、ヒト由来の培養アストロサイトを用いた検討から、Hnrnpuの発現を阻害すると、細胞の増殖や神経細胞再生に関連する遺伝子の発現も変化することがわかった。これらのことから、アストロサイトのHnrnpuには神経回路の修復を促進させる働きがあることが明らかになった。
Hnrnpuを治療標的とした新たな治療法開発に期待
アストロサイトは、脊髄損傷に限らず、多発性硬化症やパーキンソン病などさまざまな中枢神経系疾患の成り立ちにも関連が示唆されている。脊髄損傷患者や神経疾患患者においても、同様の機序により神経機能の回復が導かれる可能性があることから、Hnrnpuを治療標的とした新たな治療法の開発が期待される、と研究グループは述べている。