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日本の小児「近視」若年化進行の傾向、NDB活用大規模コホート研究より-京大

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2025年02月20日 AM09:00

広範期間の全国規模調査による近視実態把握が求められていた

京都大学は2月10日、日本の小児における近視および強度近視の発症率とその経年的変化を明らかにするために実施した、厚生労働省の管理するナショナルデータベース()を活用した大規模コホート研究の結果を発表した。この研究は、同大医学研究科の三宅正裕特定講師、亀井拓郎博士課程学生、辻川明孝教授、国際高等教育院の田村寛教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Ophthalmology Science」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

近年、近視の増加が世界的な問題となっている。近視は、近くのものははっきりと見える一方で遠くのものがぼやけて見える屈折異常。適切な眼鏡やコンタクトレンズ等で屈折矯正を行わない場合、日常生活に不便が生じる。それのみならず、近視は緑内障や網膜剥離等の他の眼科疾患の危険因子となることが知られている。このため、近視の発症を減らしたり進行を遅らせたりすることが喫緊の課題だ。昨年末には日本初の近視進行抑制点眼が薬事承認された。

このように子どもの近視は重要なトピックとなっている。日本においては、全国規模で小児の近視の頻度や発症率を調査した報告はほとんどなかったが、2024年に文部科学省が3年間の近視実態調査の結果を公表した。近視実態調査では、全国17校の小学校および12校の中学校が対象となり、約9,000人の児童・生徒の調査が行われた。この結果、小学生の37.9%、中学生の61.2%が近視だったと報告されている。しかし、この調査は全小中学生を対象としたものではなく、コロナ禍が徐々に明ける期間の調査だったこと、調査期間が3年間と限界もあった。そのため、より広範な期間での全国規模の調査による近視の実態把握が求められていた。

一方、近年では医療ビッグデータを活用した研究が注目を集めている。中でも、厚生労働省が管理するナショナルデータベースであるNDBは、日本のほぼ全国民のレセプト情報を含み、世界的にも最大規模の貴重なデータベースである。日本では3歳児健診や学校での視力検査が制度化されており、視力低下のある子どもは眼科受診が推奨される。このため、見えづらさのある子どもは医療機関を受診している可能性が高いことから、NDBを用いることで、より包括的な近視の実態把握が可能になると考えられる。

2014~2020年の0~14歳「近視/強度近視」有病率・発症数を解析

研究グループは、日本の小児における近視および強度近視の発症率とその経年的変化を明らかにするため、NDBを活用した大規模コホート研究を実施した。同研究では、「近視」「強度近視」を、診療報酬請求の際に登録される病名を用いて調査。診療報酬請求の際に登録される病名は、諸々の理由により必ずしも実際の病態を反映している訳ではないことが知られている。そのため、まず、診療報酬請求の際に各医療機関から登録される「近視」「強度近視」関連の病名が実際の病態をどの程度反映しているのかを検討するための、バリデーション研究を実施。合計11の医療機関(2つの大学病院、2つの市中病院、7つの眼科クリニック)の1万4,654人を調査した結果、「近視」関連病名は感度88.5%・特異度79.2%と、高い精度を持っていることがわかった。また、「強度近視」関連病名は感度41.6%・特異度99.8%であった。強度近視であっても「近視」の一環として診療報酬請求がなされている場合が多く注意が必要であるものの、「強度近視」関連病名で診療報酬請求がなされている場合はほぼ間違いなく強度近視を有している、と解釈できる。その上で同研究では、2014~2020年の期間における、0~14歳の子どもの「近視」および「強度近視」の、有病率と年間発症数を解析した。

小児の近視有病率は36.8%、発症数ピークは8歳

その結果、2020年10月1日時点で小児の近視有病率は36.8%であり、単位人口あたりの近視発症数は8歳で最も高いことが明らかになった。また、単位人口あたりの近視発症数は10~14歳では経年的に減少したのに対して3~8歳においては経年的に増加しており、近視発症の若年化を如実に表した結果だと考えられる。また、強度近視の単位人口あたりの発症数は、5~9歳、10~14歳のいずれの年代においても年々増加していることが明らかになった。

コロナ禍によるライフスタイル変化、小児の近視に影響を与えた可能性

2020年には新型コロナウイルス感染症()流行に伴って受診控えが起きたことから、一般に、緊急性の低い疾患での受診及びそれに対する診断は減少すると考えられる。近視も緊急性の高い疾患ではないため、実際、3~6歳においては、近視と診断された子どもの数は、2019年までの経年的な増加傾向から一転して、2020年に非連続的に減少していた。しかし、それにもかかわらず8~11歳の子どもにおいては近視と診断される子どもが急増していた。コロナ禍におけるライフスタイルの変化が子どもの近視に大きな影響を与えていた可能性が示唆される。

近視予防施策の重要性高まる

今回の研究は、日本における小児の近視発症の経年変化を明らかにするとともに、COVID-19パンデミックによるライフスタイルの変化が近視発症に影響を及ぼしたことを示すものである。ライフスタイルの変化のうち、屋外活動時間の減少、デジタルデバイス使用時間の増加、近見作業時間の増加、もしくは未知の因子など、どれがもっとも影響を与えたのかはわからない。研究グループは昨年、システマティックレビューによって、屋外活動時間の増加が近視発症を予防することを示した。今後、質の高い研究を積み重ねていくことで、子どもの近視発症に関連する環境要因がさらに明らかになっていくだろうとしている。

また、同研究は、NDB解析が、近視の動態を明らかにする上で有効であることを示した。同研究結果は、近視の若年化が進行していることを示しており、今後、近視予防施策の重要性がますます高まることが予想される。台湾ではすでに政府主導の近視対策が導入されているが、日本においても政府主導の介入策の検討が求められる。「本研究は、NDB解析が政策評価のための有力なツールとなりうることを示しており、今後の近視予防政策の立案に貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。

 

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