統合失調症に対する認知行動療法、日本では普及に遅れ
千葉大学は2月7日、統合失調症の患者に対し、通常診療に加えたオンライン認知行動療法が有効であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大附属病院認知行動療法センターの清水栄司センター長、子どものこころの発達教育研究センターの勝嶋雅之特任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「JMIR Formative Research」にオンライン掲載されている。

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統合失調症は100人に1人が発症する疾患といわれている。その症状は幻覚や妄想を主体とした陽性症状、無為・自閉を伴う陰性症状、注意や記憶、遂行機能の低下をもたらす認知機能障害等がある。治療の第一選択肢は薬物療法だが、心理社会的支援をバランスよく組み合わせることで、より治療効果があるといわれている。心理社会的支援のひとつとして認知行動療法が挙げられる。認知行動療法はうつ病や不安症等の精神疾患で効果が示されているが、統合失調症に対しても1990年代から英国を中心に発展し、大規模研究から陽性症状や抑うつの改善等に有効であることが検証されている。欧米では現在、統合失調症の患者への認知行動療法は治療ガイドラインにも含まれている。
一方で、日本においては効果研究が存在していないことや、統合失調症の認知行動療法を提供できる医療者が不足している等の状況から、患者が認知行動療法を受けることが難しい状況にある。日々の生活で感じるストレスや不安は症状再発の引き金になり、生活の質の低下のリスクにも影響をもたらすといわれている。
そこで研究グループは、ウェブ会議システムを活用して患者のアクセシビリティを改善した「統合失調症に対するオンライン認知行動療法」を国内で初めて開発し、2021年4月から2023年3月までの2年間で臨床研究を行った。
オンライン認知行動療法により症状が改善
今回の研究では、統合失調症で陽性症状のある患者24人(平均年齢33.5歳、男性10人、女性14人)を、通常診療のみを行う「対照群」と、通常診療に加えてオンライン認知行動療法を実施する「介入群」にランダムに割り付けた。介入群はタブレットPCを使用して自宅から接続して、同大医学部附属病院のセラピストと週1回、1回50分で全7回のオンライン認知行動療法に取り組んだ。その中では、患者自身の「感情(気分)」「考え方(認知)」「行動」を見直して問題の解決や対処方法の改善を目指した。さらに「強いストレスを感じた過去の出来事の記憶」も扱って、中核信念への気づきや記憶のとらえ直しにも取り組んだ。
精神症状は「陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)」を使用して測定し、介入群の平均点が治療前(52.3)から治療後(42.8)に軽減したことが観察された。8週後の2群間の精神症状の変化をみると、通常の診療のみでは改善が見られなかったが、介入群において明らかな改善が示され、その差は統計的に有意だった。また、今回の臨床試験において脱落者はなく、重篤な有害事象も発生することなく安全に実施することができた。
オンライン認知行動療法、新たな治療の選択肢として期待
同研究の結果から、オンライン認知行動療法は精神症状の改善や、不安感および生活の質の改善をもたらし、患者のストレス対処支援や再発予防支援に貢献する可能性が示唆された。また、今後、病院に来院することなく遠隔での認知行動療法の受療が可能になれば、患者の交通機関利用に関連する精神的・経済的および身体的負担に関する不安が軽減できる可能性がある。さらに、医療者不足を補うことも今後大きく期待される。
「うつ病、社交不安症、パニック症、強迫症などのオンライン認知行動療法の有効性は知られていたが、統合失調症に対するオンライン認知行動療法の有効性を示すことができたことは非常に重要。薬物療法にオンライン認知行動療法も加えた治療を、新たな選択肢として考えられるようになることを願っている」と、研究グループは述べている。
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