トルク式レオメータ、おかゆのような食品の計測には不向き
北海道大学は2月7日、ミリサイズの具材を含む食品の流動物性を安定的に計測する手法を開発し、おかゆに代表される流動食品の物性評価および流動予測に成功したと発表した。この研究は、同大大学院工学研究院の大家広平氏(日本学術振興会特別研究員PD)、田坂裕司教授、村井祐一教授、同大病院栄養管理部の熊谷聡美栄養士長らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Rheology」にFeatured Articleとして掲載されている。

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日本では人口の超高齢化に伴い、嚥下障害を抱える人が急速に増加している。これに起因する誤嚥性肺炎の年間死亡数は国内で6万人を超え(参考:2023年厚生労働省人口動態統計「性別にみた死因順位別死亡数・死亡率」)、潜在的に嚥下障害を抱える患者数は100万人に達するとされている。病院や介護施設の食事では、安全性を高めるために具材を細かく刻んだり、とろみを付けたりして提供されている。特におかゆは一食のうち半分以上のカロリーを占める貴重な栄養源となる。
その流動物性は食べやすさや誤嚥のリスクに直結するため、最適な流動食品を探求するために、客観的な数値として評価することが求められる。流動物性を評価するために一般的にはトルク式レオメータが学術および産業界で広く用いられている。しかし、この方法はサンプルが均質であることを前提としており、ミリサイズの具材を含むおかゆのような流動食品を安定的に評価することは困難だった。
混合物を含む流体の計測が可能なVPARの有用性を検証
今回の研究では、流速分布計測支援型レオメトリ(Velocity-profiling-assistedrheometry,VPAR)を使用した。これは、二重円筒間にサンプルを満たし、外円筒を回転させることで、サンプルに変形を与える。その際、内円筒に働く負荷トルクを計測し、同時に超音波を用いて円筒間の速度分布を獲得する。これにより取得したデータを流体の運動方程式を介して解析することで、流動物性を評価できる。具体的には、円筒間の各半径位置において、変形速度と応力が数値化され、これらを組み合わせることで応力の変形速度依存性が評価可能だ。従来のトルク式レオメータに比べて、ミリサイズの混合物を含む流体の計測が可能で、おかゆや果肉入りヨーグルトなどの流動食品のみならず、気泡や液滴を含んだ各種混相流体、泥や化粧品なども適用範囲に含まれる。
VPAR計測による流動物性データを基に広がりや流下挙動の予測モデルを開発
VPARを用いて、市販の白がゆ、玉子がゆ、小豆がゆの計測を行ったところ、白がゆの粘度が最も高く、次いで小豆がゆ、玉子がゆは最も低い粘度を持つことが示された。また、これらはいずれも変形速度の増加に対して粘度が低下するシェアシニング性を示し、嚥下食として優れた性質を持つことが流体力学の観点からも明らかにされた。
研究グループはさらに、得られた流動物性データを流れの予測に活用することを試みた。摂食嚥下プロセスに関連して重要とされる、平板上での食塊の広がりと縮小部での流下速度を予測する簡易的な物理モデルを提案。広がり距離と降下速度の予測は、実験データとの比較により検証され、一連の物性評価から流動予測までの妥当性が示された。
嚥下障害の度合いに応じた最適な流動食の選択が可能となることに期待
これまで定性的な評価に留まっていたさまざまな流動食品の計測がVPARによって可能になる。特に、ミリサイズの混合物を含む不均質な流体に強みがあり、実際に病院や介護施設で提供されている嚥下食のデータベース化が可能となり、医療現場で長年蓄積された知見と融合することで、嚥下障害の度合いに応じた最適な流動食の選択に活用することが期待される。「信頼性の高い流動物性データベースを摂食嚥下の予測シミュレーションに組み込むことで、食べやすさや誤嚥のリスクを予測し、安全性向上に貢献することも期待される」と、研究グループは述べている。
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