なぜ不規則な生活が肥満を誘発するのか?
日本大学は2月4日、不規則な生活により太るメカニズムを分子レベルで解明したと発表した。この研究は、同大薬学部の榛葉繁紀教授を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「npj Biological Timing and Sleep」に掲載されている。

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肥満およびその関連疾患を呈する原因は多種多様であり、脂肪性食品からのエネルギー過剰摂取、交通手段の発達による運動不足、過度のストレスなどが挙げられている。興味深いことに夜型生活やシフトワークなどの不規則な生活と肥満関連疾患(特に虚血性心疾患)との関係が示されている。体内においてエネルギーの消費をはじめとするほとんどの生理機能は1日を通じて一定ではなく、日内変動を示す。そして、この日内変動は体内時計によってコントロールされている。不規則な生活はこの体内時計を乱し、その結果、肥満および関連疾患発症を誘発すると予想されるが、その実態は全く不明だった。
研究グループは、脂肪細胞の中で体内時計が働かなくなったマウスを作製し、体内時計の機能低下が肥満を誘発しているのか、そして誘発するとすれば、どのようなメカニズムなのかを解析した。
体内時計の機能低下により脂肪細胞の肥大化とインスリン感受性増加
まず正常マウス(Arntlflox/flox)と、脂肪細胞において体内時計機能が低下しているマウス(AAKO)の脂肪細胞のサイズを比較したところ、AAKOマウスの脂肪細胞が肥大化していることがわかった。
脂肪細胞は、膵臓から分泌されるインスリンの働きにより血液からグルコースを取り込み、細胞内で脂肪に代謝して蓄積する。すなわち、インスリン量やインスリンの効き方が良いとより脂肪を溜めこみ、細胞が肥大化する。AAKOマウスとArntlflox/floxマウスの間でインスリン量に違いがなかったことから、インスリン感受性を解析したところ、AAKOマウスの血糖値は、Arntlflox/floxマウスよりも速く血糖値が低下した。またArntlflox/floxマウスでは、投与120分後には血糖値は回復し始めたが、AAKOマウスではそのような上昇は見られなかった。この結果は、AAKOマウスの方が、インスリン感受性が高いことを示している。
インスリンあるいはインスリンを溶かすための溶媒(PBS)を投与したマウスの脂肪組織における2-デオキシグルコース(2-DG)の取り込み量を比較したところ、インスリンの投与により両方のマウスともに2-DGの取り込み量は増加したが、その程度はAAKOマウスの方が約2倍高い値を示した。この結果も、AAKOマウスの方がArntlflox/floxマウスよりもインスリン感受性が高いことを示している。
脂肪細胞で肥満関連ホルモンFGF21量が増加
脂肪細胞で体内時計の機能低下が起こることでインスリン感受性が高まることがわかったことから、インスリン感受性に関わるホルモン類を解析したところ、AAKOマウスの脂肪組織において、FGF21量が増加していることが明らかになった。FGF21が細胞に作用すると、cFosやEgr1といった遺伝子の発現量が増加することが知られている。AAKOマウスの脂肪組織でもこれらの遺伝子発現量は増加しており、AAKOマウスではFGF21の量も活性も増加していることが示された。
脂肪細胞FGF21欠損では、体内時計の機能低下でも細胞肥大化やインスリン感受性増加は起こらず
FGF21はインスリン感受性を高める作用を持つホルモン。そこで、AAKOマウスの脂肪細胞においてFGF21遺伝子を欠損させ、FGF21がAAKOマウスのインスリン感受性に与える影響を解析した。AdKOマウス(脂肪細胞のFGF21遺伝子を欠損したAAKOマウス)の脂肪細胞の大きさ、インスリン感受性、脂肪組織への2-DGの取り込み量は、コントロールマウス(Arntlflox/floxFgf21flox/floxマウス)と同程度だった。すなわち、脂肪組織の体内時計が機能低下していても、FGF21が存在しなければインスリン感受性の亢進による脂肪細胞の肥大化が起こらないことが示された。これは、FGF21が体内時計の機能低下に伴う肥満発症の原因であることを示している。
脂肪細胞のFGF21量は体内時計によって制御されている
最後に、体内時計機能の低下がどのようにして脂肪細胞中のFGF21量を制御しているのかを解析した。その結果、体内時計機能が正常に働いていると、Fgf21遺伝子の転写調節領域に転写抑制因子が結合し、Fgf21の発現(mRNA量)を少なくなることがわかった。ところが、体内時計機能が低下すると、この抑制因子が外れてFgf21の転写が活性化され、量が増加した。これらの結果は、FGF21量は体内時計によってコントロールされていることを示している。
「研究成果は、今まで疫学的・経験的に知られていた不規則な生活と肥満との関係を分子レベルで明らかにしたものであり、“規則正しい生活の励行”に科学的エビデンスを与えるものだ」と、研究グループは述べている。
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