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大腸がん再発予測に、ctDNAを用いた個別化血液検査が有効と判明-岩手医科大ほか

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2025年02月18日 AM09:10

開発した超高感度血液検査が、大腸がん術後サーベイランスに役立つか検証

岩手医科大学は2月5日、大腸がん術後の再発・無再発を正確に診断する、患者個人に合わせた超高感度血液検査を開発したと発表した。この研究は、同大外科学講座の佐々木智子医師、同・臨床腫瘍学講座の岩谷岳教授、同・医歯薬総合研究所・医療開発研究部門の西塚哲教授らの研究グループと、札幌医科大学医学部附属研究所がん研究所ゲノム医科学部門の時野隆至教授、同・医療人育成センター生物学教室の佐々木泰史教授らの共同研究によるもの。研究成果は、「Annals of Surgery Open」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

がんの手術後は、再発があった場合に早期発見・早期治療により予後を改善する目的で、定期的なフォローアップ(術後サーベイランス)が行われる。現在の大腸がん治療ガイドラインでは、術後5年間は6~12か月ごとのCT検査と、3~6か月ごとの腫瘍マーカー(CEA)検査を含むサーベイランスが推奨されている。CT検査では放射線被爆や造影剤による副作用など身体的負担を伴うほか、1cm以下の再発病変の診断は難しく、また炎症性変化など良性病変とがん病変の区別が困難な場合もしばしば見られる。血性腫瘍マーカー検査は採血のみの簡便な検査であり、日常診療で広く用いられているが実際にはがんがないのに検査結果が「陽性」と出る偽陽性や、反対にがんが増大しているにもかかわらず「陰性」と出る偽陰性もしばしば見られる。したがって、がん診療では体の負担が少なく体内がん細胞の有無を正確に繰り返し判定できる検査が求められている。

研究グループは、患者ごと個別のctDNAを血液検査で追跡する「超高感度個別化腫瘍マーカー検査」を開発し、さまざまな悪性腫瘍で「早期再発予測」「治療効果判定」「無再発の確証」について有効であることを明らかにしてきた。今回の研究では、この血液検査システムが大腸がん術後サーベイランスという臨床現場で役立つかを評価した。

既存の検査に比べ、大腸がん術後の再発を高精度かつ早期に予測可能と判明

2016年3月11日~2018年6月20日までに岩手医科大学附属病院で大腸がんに対する原発巣切除術が行われ、術後3年以上が経過した52人を対象に、定期的なCT検査とCEA検査に加え、ctDNA検査を用いた術後サーベイランスを行った。遺伝子解析の方法は、手術で切除された原発巣組織について次世代シーケンサー(NGS)を用いた遺伝子変異プロファイリング検査を行い、検出された個々の患者に特有の変異から少数を選定後、デジタルPCRを用いて高感度血液検査を行った。

その結果、観察期間の中央値は1,503(322-1,951)日で、術後無再発を維持している患者は42人、再発は10人に認めた。ctDNA検査は合計867回、患者1人あたり平均16.7回行われた。無再発患者では術後1か月の初回検査でctDNAは陰性化し、以後も陰性を維持した。一方、再発患者10人では無再発患者に比べctDNA陽性の採血ポイントが有意に多く認められた(114回 vs 27回, P< 0.0001)。再発患者では、CT検査での再発診断に182(0-376)日先行してctDNAの陽性化が見られた。

一方で、既存の腫瘍マーカー検査であるCEAは無再発患者で陽性(基準値以上)と判定される偽陽性、再発があるものの、陰性(基準値以下)と判定される偽陰性が多く見られた。再発および無再発の診断精度は、ctDNA検査で感度:85.7%、特異度:97.6%、CEA 検査で感度:64.3%、特異度:61.9%とctDNA検査が優れていた。

ctDNA検査の継続でさらに「診断精度」上昇

術後初回採血で、ctDNAが陽性の患者(n=4)は陰性患者(n=43)よりも有意に高い再発リスクを示した(ハザード比:39.6, P < 0.0001)。また、術後サーベイランス中に1回でもctDNAが陽性の患者(n=9)は、ctDNA陰性が持続した患者(n=38)よりも有意に高い再発リスクを示した(ハザード比:56.3, P < 0.0001)。これらの結果は、術後初回のctDNA検査で高い精度で再発を予測できるが、ctDNA検査を継続することでさらに診断精度が上昇することがわかった。

同研究では、CT検査による画像診断も計382回(患者1人あたり年3.3回:3~4か月ごと)と通常より多く行い、ctDNA検査による再発診断と比較した。CT検査を3か月ごとから1年にごとに延長した場合、理論上164(0-267)日の再発遅延が生じるが、再発診断に339(42-533)日先行してctDNA陽性化が検出されることが予測された。

術後再発リスク・早期再発発見、大腸がん術後経過観察のCT検査も削減できる可能性

今回の研究成果により、患者ごと個別のctDNAを用いた超高感度血液検査は、現在大腸がん術後サーベイランスで用いられているCT検査やCEA腫瘍マーカー検査より、高い精度で再発・無再発を診断できることが示された。手術後のctDNA検査により再発リスクの予測が可能であり、検査継続により早期再発診断が可能であることが示された。個別化ctDNAを用いた超高感度血液検査を用いることにより、再発発見の遅延を心配することなく、大腸がん術後サーベイランスにおけるCT検査を削減でき身体的・経済的負担を低減できる可能性がある。なお、がんに対するctDNAモニタリング検査は、岩手医科大学附属病院で2022年4月より「OTS-アッセイ」として開始している。

「再発リスクの高い大腸がん患者では、再発予防を目的として術後補助化学療法が行われる。術後のctDNA検査により補助療法が必要な人と不要な人を選別することが可能であり、さらにctDNA検査を追跡することにより適格なタイミングで再発治療を行うことで、予後の改善や治療の副作用の軽減が期待される」と、研究グループは述べている。

 

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