気圧と痛みの研究、動物実験報告は限定的
愛知医科大学は2月3日、低気圧が神経に由来する痛みを悪化させることを示す新たな研究成果を発表した。この研究は、同大医学部疼痛医学講座の寺嶋祐貴助教、佐藤純客員教授、稲垣秀晃客員研究員、牛田享宏教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLoS One」に掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
気象変化によって痛みが誘発されたり、悪化したりする現象はよく知られている。気圧の変化は、片頭痛、関節リウマチ、線維筋痛症、その他の筋骨格系の痛み、神経障害性疼痛など多様な痛みに影響を与えると報告されている。しかし、気圧変化と痛みの関係については、まだ科学的に十分な根拠が示されていない。その理由として、ヒトでの研究ではさまざまな要因が関連しうるため、データの解釈が単純ではなくなることが挙げられる。そのため、この分野でより確固たる科学的根拠を得るためには、動物実験が不可欠である。一方で、世界的に見ても気圧と痛みの関連についての動物実験の報告は限られている。
神経損傷マウス、低気圧で痛みは増強するか?
研究グループは、ヒトの気象病の病態解明と治療法の確立のために、これまでに動物実験を行ってきた。今回の研究では、神経損傷を有するマウスが低気圧にさらされることでその痛みは増強するかについて調査した。さらに、メカニズムの解明に迫るため、血液中のコルチコステロン濃度への低気圧の影響についても調査した。同研究では、大きく分けて2つの実験を行い、気圧低下(LP)が神経障害性疼痛に与える影響を明らかにした。
気圧低下の影響、繰り返し刺激で蓄積の可能性
第1の実験では、坐骨神経結紮マウス(CCIマウス)を用い、単回の20hPaの気圧低下(single LP)と3回連続の20hPaの気圧低下(3LPs)が疼痛行動に与える影響を比較した。その結果、single LPでは顕著な痛覚過敏性の増加は見られなかったものの、3LPsでは顕著に増加することが確認された。これにより、気圧低下の影響は繰り返しの刺激によって蓄積される可能性が示唆された。
慢性神経障害性疼痛を有する条件下で、気圧低下がHPA軸を活性化
第2の実験では、気圧低下によるストレス反応を評価するため、CCIマウスおよび正常マウスの血漿コルチコステロン濃度を測定した。コルチコステロンはストレスホルモンの一種で、げっ歯類においてストレス反応に関与する物質として知られている。実験の結果、CCIマウスでは3LPsによる血漿コルチコステロン濃度の有意な上昇が確認されたが、健常マウスでは変化が認められなかった。この結果から、気圧低下が慢性の神経障害性疼痛を有する条件下で、ストレスに対する生理的反応を調節する仕組みである視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)を活性化させることが示された。
マウスで低気圧の痛み増強を示す初の研究、今後は詳細なメカニズム解明に期待
同研究結果は、気圧低下が慢性痛を増悪させる重要な環境因子であることを示す科学的証拠を提供し、新たな治療法の開発に寄与する知見を示している。同研究は、マウスを用いて低気圧が痛みに影響を及ぼすことを示した初めての研究だ。マウスは、遺伝学的研究において広く用いられるモデル動物であり、本研究の成果を基盤として、遺伝学的手法を用いた詳細なメカニズムの探索が期待される。具体的には、痛覚過敏を増悪させる遺伝的要因やシグナル伝達経路を特定することが可能になると考えられる。このような知見は、気象関連痛の根本的な理解を深め、新たな治療標的の発見や予防法の開発につながると期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・愛知医科大学 プレスリリース