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胃がんに対する術後補助化学療法、75歳超の高齢者にも有効-NCGMほか

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2025年02月14日 AM09:00

「全国胃癌登録」のデータから75歳超の患者の特徴を解析

国立国際医療研究センター(NCGM)は2月6日、「全国胃癌登録」のデータを用いて、胃がん患者、特に75歳超高齢胃がん患者の特徴を解析し、生存期間に影響を与える因子を特定したと発表した。この研究は、同センターの山田康秀研究医療部長、浜松医科大学の今野弘之学長、竹内裕也外科学第二講座教授、慶應義塾大学医学部の北川雄光外科学(一般・消化器)教室教授、名古屋医療センターの小寺泰弘病院長、大阪大学大学院医学系研究科の土岐祐一郎外科学講座消化器外科学教授、岐阜大学の吉田和弘学長、神戸大学大学院医学研究科の掛地吉弘医科学専攻外科学講座教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Global Health and Medicine」に掲載されている。

ステージIIまたはIIIの切除可能な胃がん患者では、目に見えない残存しているかもしれないがん細胞を死滅させ、再発を予防することを目的に術後補助化学療法を行うことが標準治療である。しかし、臨床試験に参加する患者では75歳超の患者数が少なく、抗がん剤には効果が期待される一方で副作用もあることから、高齢者に対する術後補助化学療法に関する明確なエビデンスが得られていなかった。

研究では、ナショナル・データベースの一つである「全国胃癌登録」のデータを用いて、統計学的に術後補助化学療法の有効性を検証した。また、臨床試験を実施するには、患者数が少ない胃切除後残胃がんに対する術後補助化学療法、およびCY1胃がんに対する術後化学療法の効果も検証した。

具体的には、手術後に補助化学療法を行った患者と行わなかった患者の生存曲線を比較する際、潜在的な交絡因子に対処するため、傾向スコアマッチング法を行った。傾向スコアの推定には、年齢、性別、米国麻酔学会の身体状態分類(ASA-PS)、Eastern Cooperative Oncology Group全身状態(ECOG-PS)、病理組織型、手術アプローチ、リンパ節郭清、残存腫瘍、胃切除術式、およびクラビアン・ディンドー合併症重症度分類の二値変数を用いた。

補助化学療法は全年齢で有効だったが、75歳以上はそれ以下に比べ5年生存率不良

2011年~2013年の間に国内421病院で胃がんの治療を受けた3万4,931人の患者のデータを分析した。補助化学療法は全年齢を通じて有効であったが、75歳超の高齢患者は75歳以下の患者に比べて、5年生存率が約10ポイント程度低く予後が不良であった。術後化学療法は、残胃がん、腹腔内以外に他の遠隔転移がないCY1のステージIVの患者にも有効とわかった。最も多く投与された補助化学療法はS1単剤療法であった。

ステージIIおよびステージIIIの患者における生存期間の独立した予後不良因子は、75歳以上、男性、術前ECOG-PS1、術前腎機能障害、胃全摘術、D1リンパ節郭清、開腹術、残存腫瘍R1またはR2、およびクラビアン・ディンドー分類グレードII以上、補助化学療法なしだった。また、未分化型腺がん(低分化腺がんと印環細胞がん)は、分化型腺がんに比べ予後不良だった。さらに、腹腔鏡手術は独立した予後良好因子であることがわかった。

グレードII以上の合併症発症頻度が高い因子は、75歳以上、男性、胃全摘術など

ロジスティック回帰では、75歳以上、男性、腎機能障害、ECOG-PS1以上、および胃全摘術が、クラビアン・ディンドー分類グレードII以上の合併症を発症する頻度が高かった。胃癌治療ガイドラインでは、胃切除術後の予後が不良であるCY1胃がんに対してS-1単剤療法が推奨されているが、エビデンスレベルは高くない。今回の研究の結果、CY1陽性胃がん症例に対する術後化学療法の有用性が示された。

、75歳以上、腎機能異常、胃全摘術などでは継続困難

S-1は、テガフール(FT、フルオロウラシル(5-FU)のプロドラッグ)、5-クロロ-2,4-ジヒドロキシピリジン(CDHP、5-FUの分解酵素であるジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼを阻害)、オキソン酸を組み合わせた経口フルオロウラシルの抗がん剤であり、腎機能障害のある患者では5-FUの分解酵素阻害剤であるCDHPのクリアランスが遅れ、血中5-FU濃度の高い状態が長くなる。胃全摘術を受けた患者では、血漿中5-FUとCDHPの最大濃度と血中濃度曲線下面積が有意に増加し、それがクリアランスの遅延を引き起こす。実際に胃全摘術を受けた患者や腎機能が低下している患者では、S-1投与量の減量を必要とする頻度が高いとの既報もある。術後補助化学療法のコンプライアンス(服薬継続)は、75歳以上、腎機能異常、術前ECOG-PS1以上、胃全摘術、病期グレードIII期、クラビアン・ディンドー分類グレードII以上で有意に不良であった。

術後合併症や服薬継続の危険因子を踏まえた術式の検討を

今回の研究により、術後補助化学療法は75歳超高齢患者にも75歳以下患者同様に有効であることがわかった。術後合併症および補助化学療法コンプライアンス(服薬継続)低下のハイリスク因子の一つとして胃全摘術が抽出された。「胃癌治療ガイドライン」では、ステージIIおよびIIIの切除可能な胃がんに対する標準的な術式として、胃亜全摘術および胃全摘術が主に推奨されている。「術後合併症や服薬継続の危険因子を踏まえ、患者、医師、医療スタッフの間で意思決定を共有することにより(シェアード・デシジョン・メイキング)、高齢患者の生存率と生活の質を改善するために、遠位胃切除術に加えて近位胃切除術と幽門温存手術を、より一層検討する必要がある。さらに、部分的胃切除術または局所切除術の有用性を臨床試験で評価することが望まれる」と、研究グループは述べている。

 

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