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砂糖誘発性の肥満を抑制する腸内細菌を特定-京大ほか

読了時間:約 4分54秒
2025年02月13日 AM09:20

ヒトにおける高EPS産生腸内細菌を探索、微生物代謝産物が宿主に与える影響は?

京都大学は2月3日、約500人のヒト健常者および肥満症患者の便検体を指標に、砂糖(スクロース)誘発性の肥満を抑制するバイオマーカーとして、ヒト消化管常在細菌の一種である「Streptococcus salivarius(S. salivarius)」を特定したと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究科の木村郁夫教授、同・清水秀憲共同研究員、東京農工大学大学院農学研究院の宮本潤基准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
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食事は日々の栄養摂取において最も重要な要素だが、特に高脂肪・高糖分の摂取によるエネルギー恒常性の破綻は肥満を引き起こす。スクロース、グルコース()、フルクトース(果糖)は単純糖であり、日常的に消費される糖の中ではスクロースとグルコースが最も一般的だ。スクロースの摂取量が欧米諸国で日々増加する中、スクロースを多く含む食事は、肥満や糖尿病などの健康問題において最も重要なリスクファクターとして認識されている。また、微生物もこれらの糖をエネルギー源として利用するが、その代謝経路はヒトとは異なる。解糖系(糖を分解してエネルギーを得る過程)の後、嫌気性細菌はピルビン酸を酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸に変換する。腸内細菌も同様に、嫌気性環境下で糖代謝を通じてこれらの最終産物を生成する。特に宿主の酵素で消化されず、小腸での吸収を免れる発酵性食物繊維(難消化性多糖類)は、効率的に短鎖脂肪酸を生成することができる。

研究グループはこれまでに、短鎖脂肪酸が宿主のエネルギー源として機能し、また短鎖脂肪酸を認識する受容体GPR41およびGPR43を介して内分泌系に影響を与え、宿主の代謝恒常性に寄与することを明らかにしてきた。一方、糖は糖代謝中に多糖類に異化されることもある。グリコーゲンやデンプンといった貯蔵多糖類は、動物や植物にとってエネルギーを蓄え提供する重要な炭水化物だ。微生物もまた、その種類や環境条件に依存し、さまざまな貯蔵多糖類を生成する。同研究グループは最近、キムチや漬物といった発酵食品の産生に関わるLeuconostoc mesenteroidesという乳酸菌が生成する菌体外多糖()に関連するプレバイオティクスが、宿主に大きな代謝的利益をもたらすことを報告している。

これらの発見は、一部の腸内細菌が糖から難消化性多糖類を生成し、宿主の代謝的利益に寄与する可能性を示唆している。そこで今回の研究では、ヒトにおける高EPS産生腸内細菌を探索し、宿主の糖摂取と腸内細菌が生成するEPSのプレバイオティクス効果の関係、さらに微生物代謝産物が宿主の健康に与える分子機序の解明を目指した。

ヒト腸内細菌由来EPS産生菌として、S. salivariusに着目

ヒトにおけるEPSの生理的機能について検討するため、約500人のヒト糞便を用いてヒト腸内細菌由来EPS産生菌の探索を行ったところ、5菌種47株を単離し、菌種を同定した。これら5菌種のうち、「Weissella cibaria」「W. confusa」「L. mesenteroides」「L. lactis」は発酵食品などからの検出が認められたのに対し、「S. salivarius」は検出されなかった。興味深いことに、S. salivariusは、ほとんどのヒト糞便から検出されるのに対し、マウス糞便からは検出されないこと、ヒト腸内S. salivariusの占有率および短鎖脂肪酸濃度はBMIと負の相関性を示したことから、ヒト腸内細菌由来EPS産生菌としてS. salivariusに着目した。S. salivariusがスクロースを基質として産生するEPS(SsEPS)の構造解析をしたところ、レバン型のフルクタンとグルカン型のデキストランの混合物であったことから、SsEPSは宿主の消化酵素では消化できない食物繊維様物質である難消化性多糖であることを確認した。

SsEPSを利用可能な腸内細菌を探索するため、さまざまな腸内細菌種の単一菌培養培地にSsEPSを添加し、SsEPSの資化性(特定の物質を利用して増殖したり、エネルギーを得る反応)を確認したところ、ヒト腸内優先菌種であるBacteroides ovatusおよびB. thetaiotaomicronが特異的に増殖し、短鎖脂肪酸濃度の増加が認められた。

SsEPSにおける代謝機能の改善効果に、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸が関与

次に、SsEPSが宿主のエネルギー代謝や糖代謝に与える影響について肥満モデルマウスを用いて検討したところ、SsEPSを長期間摂取したマウスでは、対照群と比較して、食物繊維摂取時に観察されるような体重増加の抑制が認められ、宿主の腸内環境が変化し、SsEPSを利用可能なB. ovatus、B. thetaiotaomicronおよび糞便や血液中の短鎖脂肪酸濃度の増加、血糖値などの代謝パラメーターの改善が認められた。

一方、短鎖脂肪酸を認識する受容体欠損マウス(Gpr41-/-Gpr43-/-)では、SsEPS摂取におけるこれらの効果が消失した。以上の結果から、SsEPSにおける代謝機能の改善効果は、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸が関与していることを確認した。

EPS資化菌がSsEPSを利用し短鎖脂肪酸を産生、スクロース誘発性の肥満を予防

さらに、無菌マウスにSsEPS産生菌あるいは非産生菌を移植したノトバイオートマウスを用いて、スクロースを長期的に摂取させた結果、SsEPS産生菌ノトバイオートマウスでは、非産生菌ノトバイオートマウスと比較して、腸内のEPS産生が認められた。一方、SsEPS産生菌+資化菌(B. ovatusおよびB.thetaiotaomicron)ノトバイオートマウスでは、SsEPS産生菌や資化菌を単独に移植したノトバイオートマウスやSsEPS非産生菌+資化菌ノトバイオートマウスと比較して、スクロース誘発性の肥満誘導における体重増加の抑制、糞便中の短鎖脂肪酸濃度の増加、血糖値などの代謝パラメーターの改善が認められた。

以上の結果から、SsEPS産生菌がスクロースを基質として腸内でEPSを産生することで宿主の糖吸収を抑えるだけでなく、B. ovatusやB. thetaiotaomicronなどのEPS資化菌が合成されたSsEPSを利用し短鎖脂肪酸を産生することで、スクロース誘発性の肥満を防ぐ一連のメカニズムを明らかにした。

EPSやEPS産生菌が、肥満症の早期検出や新たな肥満予防・治療につながることに期待

近年の食の欧米化に伴う肥満や糖尿病などの代謝性疾患患者の増加は、社会的な問題となっており、その予防法や治療法の確立は急務と言える。肥満や糖尿病などの代謝性疾患に対する腸内細菌叢の関与が科学的根拠に基づき明らかにされて以降、腸内細菌叢の変化や代謝物の産生に大きな影響を与える日々の食事の質や種類の重要性が再認識されている。

今回の研究成果は、「食(糖質)-EPS(腸内細菌合成物)-(腸内代謝物)-宿主受容体(短鎖脂肪酸受容体)」における腸内細菌の糖代謝相互作用が宿主の代謝機能に与える影響についての一端を明らかにしたものであり、新たなプロバイオティクス、プレバイオティクスの開発や実用化につながる重要な知見を提供するものと考えられる。また、近年では腸内細菌代謝産物を摂取することで健康増進をはかるポストバイオティクスにも注目が集まっており、ポストバイオティクス成分としてのEPSの効果も期待される。

「今後、これらの知見に基づき、EPSや短鎖脂肪酸をはじめとするさまざまな腸内細菌由来代謝物とその標的受容体の同定や機能解析が進み、研究の進展とともに将来的に肥満や糖尿病などの代謝性疾患などの予防や治療法の開発に向けて今後、本成果のさらなる応用が期待される」と、研究グループは述べている。

 

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