異状死データベースを解析し、新型コロナが自殺リスク増加に与える影響を調査
広島大学は2月3日、新型コロナウイルス感染症が自殺リスク増加に与える影響を調査し、その結果を発表した。この研究は、同大病院の宮森大輔助教(診療講師)を中心とした研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Primary Care」に掲載されている。

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研究グループは今回、神戸市における異状死のデータベースを用いて「新型コロナウイルス感染症流行期間中(2020~2022年)における月次自殺率の変化」を分割時系列分析で検討し、流行期間中の月次自殺率のレベル変化(即時的な影響)とトレンド変化(長期的な影響)を評価した。
流行前に比べ、新型コロナ流行の初期に月次自殺率有意に増加
その結果、新型コロナウイルス感染症流行の初期に、月次自殺率は流行前に比べて有意に増加していることが判明した。分割時系列分析によると、全体で月次自殺率(100万人あたり)が+4.14(95% CI: 1.70–6.58)と有意に急激な変化が認められた。一方で、傾向の変化は見られなかった(+0.02, 95% CI: -0.10–0.13)。
定期的に医療機関を受診していた人では自殺率増加せず
「かかりつけ医受診の有無」に関しては、流行期間中、定期的にかかりつけ医を受診していない人では、自殺率のレベル変化が+2.83(95% CI: 1.35–4.32)と有意に増加した。一方、定期的に受診していた人では+0.99(95% CI: -0.78–2.76)と増加はみられなかった。
つまり、定期的な医療機関受診がある場合は流行期間中も自殺率の有意な変化が認められ、受診がない場合では顕著なレベル変化が観察された。これらのことから、医療アクセスが自殺リスク抑制における重要な要因であることが示された。
かかりつけ医・精神科の定期受診が、パンデミック時の自殺リスク抑制に貢献の可能性
「精神科受診の有無」に関しては、精神科を定期的に受診していない人では、自殺率が+2.85(95% CI: 0.56–5.14)と有意に増加した。一方、精神科を受診していた人では+0.59(95% CI: -0.98–2.16)と増加はみられなかった。
これらのことから、定期的な医療機関受診(かかりつけ医・精神科)は、パンデミック時の自殺リスクを抑える緩衝材の役割を果たしていた可能性が示された。特に、医療機関受診がない人々におけるレベル変化の顕著な増加は、行動制限や医療アクセスの低下による精神的健康への悪影響を反映している可能性がある。
パンデミック時に医療機関への接触機会を確保するための持続可能なポリシー策定も重要
今回の結果から、パンデミック下における精神的健康維持のために、かかりつけ医・精神科への定期的な受診を啓発し、受診の敷居を下げる対策が必要であることがわかった。同時に、精神的健康を支えるための訪問機会の減少を補完するオンライン診療や、地域連携の推進も重要だ。また、パンデミック時における医療機関への接触機会を確保するための持続可能なポリシーの策定も必要だと考えられる、と研究グループは述べている。
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・広島大学 プレスリリース