ストレスを抱えた外科医が手術した患者には合併症が少ない?
手術を受けるときには、執刀医をチェックしてみてほしい。ストレスを感じている様子が見られるのであれば、それは、手術を受ける人にとって良いサインである可能性のあることが、新たな研究から明らかになった。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJake Awtry氏らによるこの研究では、生理的なストレスレベルが高い外科医が執刀した患者の方が、手術に関連する主要な合併症を発症しにくいことが示されたという。詳細は、「JAMA Surgery」に1月15日掲載された。
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画像提供HealthDay
この研究結果についてAwtry氏らは、「経験豊富な外科医のストレスは患者のアウトカムに関連していることを示した結果であり、外科治療の改善に向けた今後の取り組みにおいて注目されるべきものかもしれない」と結論付けている。
この研究でAwtry氏らは、フランスのリヨンにある4つの大学病院で2020年11月から2021年12月にかけて行われた793件の手術を調べた。これらの手術は、消化器外科、整形外科、婦人科、泌尿器科、心臓外科、胸部外科、内分泌外科の7つの専門領域の14の外科部門で実施されたものだった。手術を執刀したのは38人の外科指導医(平均年齢46歳、男性78.9%)で、そのうちの57.9%が教授または准教授であった。外科医は手術中の心拍数の変化を追跡するためのデバイスを装着して手術を実施した。この心拍数のデータから、交感神経の活動(ストレス時や緊張時に活発化)と副交感神経の活動(リラックス時に活発化)のバランスを、低周波数(LF)と高周波数(HF)の比(LF:HF比)で定量化した。
その結果、手術開始から5分の間にLF:HF比が増加、すなわちストレス増大の兆候が認められた場合には、患者が主要な合併症を起こす可能性が有意に低下することが示された(調整オッズ比0.63、95%信頼区間0.41〜0.98、P=0.04)。ただし、死亡リスクの低下(同0.18、0.03〜1.03、P=0.05)や集中治療室(ICU)での滞在期間短縮(同0.34、0.11〜1.01、P=0.05)との関連は統計学的に有意ではなかった。
これらの結果は、外科医のストレスが手術時間の延長や巧緻性の低下、潜在的に有害な事象に関連することを示した過去の研究結果とは相反するものだ。Awtry氏らは、「過度のストレスや認知的負荷は外科手術の成績に悪影響を及ぼす可能性があるが、必要なレベルの経験や対応力がある外科医の場合、適度なストレスがより良い成績をもたらす可能性がある」と結論付けている。
英エディンバラ大学行動科学部長のSteven Yule氏らは、付随論評の中で、エリートアスリートはプレッシャーの下でも集中し、成功することができるが、優秀な外科医にも同様の特徴があるようだとの見方を示している。同氏らは、「この研究結果は、要求度の高い職務ではストレスは有害であるという従来の見方を覆すものであり、適度なストレスはパフォーマンスを向上させるという数十年にわたるスポーツ心理学の研究結果に極めて近いものだ」と述べている。
さらにYule氏らは、外科医が目の前の手術に集中するためには、試合前にロッカールームで実践されているようなストレス管理法が有効な可能性があるとの見方を示し、「このようなプロスポーツのパフォーマンス向上テクニックを手術室でも応用することで、これまでにないレベルでのアウトカムの向上が期待でき、強靭な外科文化の醸成につながる可能性がある」と述べている。
▼外部リンク
・Association Between Surgeon Stress and Major Surgical Complications
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