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下肢潰瘍合併PADに対する LDLアフェレシス、治癒メカニズムに新知見-横浜市大ほか

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2025年01月31日 AM09:30

LDLアフェレシス治療、LDL除去以外にも多様な効果?

横浜市立大学は1月27日、下肢潰瘍を合併した末梢動脈疾患(PAD)患者に対する低分子リポタンパク質アフェレシス()治療の前後の血清サンプルを用いてプロテオーム解析による網羅的な解析を行い、その潰瘍治癒のメカニズム解明に向けた検討を行い、その結果を発表した。この研究は、同大医学部循環器・腎臓・高血圧内科学教室の石賀浩平医師、上原立己医師、涌井広道准教授、田村功一教授らの研究グループと株式会社カネカとの共同研究によるもの。研究成果は、「Therapeutic Apheresis and Dialysis」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

(PAD)は、世界的に心血管系疾患の主要な原因の一つであり、罹患率および死亡率の高い動脈硬化性疾患である。さらに、近年の薬物療法や血行再建術の進歩にもかかわらず、多数の動脈硬化リスクファクターを持つ患者では重篤な病変が多発する傾向があり、これらの治療法に抵抗性を示し、生命予後やQOL(Quality of Life、生活の質)に多大な影響を与えることが知られている。また、血管内治療、血管外科的治療による血行再建術が施行できたとしても、その後の再狭窄率が高いことも問題となっている。特に潰瘍合併症においては、血管再建術を行っても潰瘍が治癒せず、下肢切断に至る患者も多くいる。

潰瘍の保存的治療を超える治療法の進歩が求められており、その手段の一つとしてLDLアフェレシスが行われてきた。PADにおけるLDLアフェレシスの有効性は、主にリポタンパク質の吸着による抗動脈硬化作用によるものとされてきたが、近年、リポタンパク質の除去以外にも多様な効果があることが示唆されている。しかし、その効果の詳細は依然として不明だった。

LDLアフェレシス治療を実施した10例中7例で潰瘍の皮膚が治癒

今回研究グループは、LDLアフェレシスの前後の血清中のタンパク質の変化を、プロテオーム解析を用いて網羅的に評価し、その根本的なメカニズムの検討を行った。先行して研究グループが実施した「正コレステロール血症を呈する従来治療抵抗性閉塞性動脈硬化症に対するデキストラン硫酸カラムを用いたLDLアフェレシス療法試験(LETS-PAD study)」の参加者のうち、治療開始前に下肢潰瘍を認めた10例を対象とした。具体的な条件として、PADと診断され、リポタンパク質が正常範囲内(総コレステロール値が220mg/dL以下、LDLコレステロール値が140mg/dL以下)であり、さらにベースライン時に下腿潰瘍が確認された症例とした。

臨床所見では、治療終了後1か月時点で6例に、治療終了後3か月時点では7例に上皮化を認めた。潰瘍病変スコア(DESIGN-R)は治療終了後1か月時点で有意に改善を認め、3か月後時点でも持続しており、皮膚灌流圧(SPP)も同様だった。

プロテオーム解析により血管新生関連タンパク質の変化を同定

研究グループは、初回のLDLアフェレシス治療直前と治療終了後1か月時点での血清サンプルを用いてプロテオーム解析を実施した。プロテオーム解析では、2,033種類のタンパク質が同定された。これらのタンパク質のうち、55種類のタンパク質は、ベースラインと治療終了後1か月時点で発現に有意な差が見られ、さらにそのうち20種類のタンパク質に関して、有意な変化かつ、半分以下に減少、もしくは2倍以上の増加を認めた。過去に創傷治癒や血管新生を抑制することが報告されているB細胞リンパ腫タンパク質-2関連X(BAX)およびC-X-Cモチーフケモカイン10(CXCL10)はいずれも有意な減少を認めた。これらのタンパク質の減少が、抑制されていた血管新生の促進を介して潰瘍に対するLDLアフェレシスの治療効果に寄与している可能性が明らかになった。

マルチオミクス解析を組み合わせ、より複雑な病態の解明へ

透析膜として、今回の研究ではデキストラン硫酸カラム(製品名:)を用いたが、現在、直接血液灌流法(direct hemoperfusion:DHP)による新規吸着型浄化器(製品名:、医療機器承認番号:30200BZX00250000、製造販売業者:株式会社カネカ)が開発され、2020年に製造販売承認が得られ、2021年3月より臨床的に使用が可能となり、期待を集めている。

「今後、レオカーナを用いた治療前後のサンプルを用いて網羅的解析を行うことで、膜による性能の違いをはじめとしたデータの蓄積およびメカニズムの解析を実施する予定だ。また、サンプルの解析手法としては、研究で用いたプロテオーム解析のほか、近年の解析方法の進歩により、DNA内でコード化された情報に対するゲノミクス、RNA転写産物に対するトランスクリプトーム、代謝産物に対するメタボロームなどさまざまなオミクス解析が開発されていることから、今後はこれらを組み合わせたマルチオミクス解析により、複雑な病態の解析も期待される」と、研究グループは述べている。

 

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