筋力や柔軟性を高める運動として推奨のラジオ体操、科学的根拠は限定的だった
日本老年学的評価研究機構は1月27日、ラジオ体操実践により、高齢者の要介護および認知症のリスクを低下させる可能性が世界で初めて明らかになったと発表した。この研究は、帝京大学大学院公衆衛生学研究科の金森悟准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「SSM-Population Health」に掲載されている。
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画像はリリースより
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高齢化が進む日本では、要支援・要介護や認知症を予防することが重要な課題となっている。65歳以上の人口増加に伴い、介護が必要な高齢者の増加が見込まれ、これに対処するための予防策が求められている。日本で広く普及している体操(特に、ラジオ体操)は、筋力や柔軟性を高める運動として推奨されている。しかし、その効果に関する科学的根拠は限定的であった。
高齢者1万1,219人対象、平均5.3年間の追跡調査を実施
そこで今回の研究では、体操が要支援・要介護や認知症のリスクをどの程度低減できるかを明らかにするため、全国規模のデータを用いた検証を行った。同研究は、日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを用いた全国規模の前向きコホート研究。対象は、介護認定を受けていない65歳以上の高齢者1万1,219人で、平均5.3年間の追跡調査を実施した。体操の実践状況に基づき、体操をしない群、ラジオ体操のみを行う群、その他の体操のみを行う群、両方を行う群の4群に分類した。主要な評価項目は、要介護認定の判定結果をもとにした要支援・要介護、要介護2以上、認知症で、年齢、性別、所得、教育水準、身体機能などの要因を調整してCox比例ハザードモデル(観察期間の考慮ができる分析方法)で分析した。
その他の体操のみ実践群、要介護2以上・認知症リスク19%低下
対象者の平均年齢は74.2歳、男性の割合は46.3%、追跡期間中の要支援・要介護は2,580人、要介護2以上は1,307人、認知症は1,271人だった。体操を実践していない群と比較して、ラジオ体操のみを実践した群では、認知症のリスクが18%低下した。その他の体操のみを実践した群では要支援・要介護のリスクが13%、要介護2以上のリスクが19%、認知症のリスクが19%低下した。一方で、両方を実践した場合は、統計学的に明らかな関連はなかったが、要介護2以上や認知症のリスク低下の傾向が見られた。
体操の普及、高齢者の健康維持・介護予防に役立つ可能性
今回の研究は、高齢者における体操の実践が要支援・要介護や認知症のリスク低減につながる可能性を示した。特に、ラジオ体操は認知症リスクを、その他の体操は要支援・要介護および認知症リスクを効果的に低減する可能性が明らかとなった。認知症予防のメカニズムには、身体活動量の増加とともに、多様な動作を伴う運動であること、音楽が伴うことによる効果、他者とのつながりなどが考えられる。これらの結果は、体操の普及が高齢者の健康維持や介護予防に役立つ可能性を示唆しており、今後は実践頻度や運動プログラムの内容に関するさらなる研究が必要である。
高齢化が進む社会において、体操が要支援・要介護や認知症の予防に効果的であることを科学的に示した。特にラジオ体操などの普及率が高い体操の有効性を確認できたことで、日常的な体操の実践が健康増進や介護予防につながることを示唆している。この知見は、高齢者の健康施策や地域社会での運動プログラムの設計・推進に実用的な示唆を提供し、高齢者の生活の質向上や医療・介護負担軽減に貢献する可能性がある、と研究グループは述べている。
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・日本老年学的評価研究機構 プレスリリース