厳密な「頭内爆発音症候群」の定義に基づいた調査は行われていなかった
滋賀医科大学は1月27日、頭内爆発音症候群(EHS)が、抑うつ、不安、不眠、疲労など、メンタルヘルスや睡眠の問題と関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科学生のツォボーセド・ウヤンガ氏をはじめとする精神医学講座の研究グループ(角幸頼助教、尾関祐二教授、角谷寛特任教授ら)によるもの。研究成果は、「Sleep」に掲載されている。
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画像はリリースより
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EHSは睡眠から覚醒への移行時に、頭の中で大きな音や爆発音を知覚することを特徴とする睡眠障害。EHSに関する研究は限られており、いくつかの集団で有病率が報告されてきたが、特にアジアにおける有病率の詳細は明らかになっていなかった。また、これまでの疫学研究では、睡眠障害に関心のある人、大学生、睡眠研究登録の参加者など、特定の集団を対象とすることが多かった。さらに、多くの先行研究では単一の質問項目を用いてEHSを定義しており、睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)の診断基準を用いた厳密なEHSの定義に基づいた調査は行われていなかった。
EHSの有病率および関連する要因を理解することは、いくつかの理由から重要だ。まず、EHSの影響を知ることで、日常機能やQOLにどのような影響があるのかを明らかにできる。さらに、EHSが他の睡眠の問題や心理的な要因とどのように関連するかを解明することで、症状を緩和し心身の健康を改善するための的を絞った介入や治療アプローチに役立てることができる。
甲賀市の市職員1,843人を対象に紙とウェブで横断調査
今回の調査は、Night in Japan Home Sleep Monitoring Study(NinJa Sleep研究)の一環として実施された、紙とウェブによる横断研究。調査対象となったのは2022年11月1日~2023年3月7日まで実施された質問票調査に参加した甲賀市の市職員だ。耳鼻咽喉科的疾患と精神科的疾患などの併存を評価するため、参加者に医師から診断されたことのある病状に関する一般的な質問を行った。
さらにデータ欠落者およびてんかんの既往のある人を除外し、最終的に1,843人を分析対象とした。調査対象者は38.2%が男性、61.8%が女性だった。さらに参加者の14.1%、9.8%、11.4%に、それぞれ抑うつ(PHQ-9≧10)、不安(GAD-7≧10)、不眠(AIS≧10)の症状があった。参加者の年齢範囲は20~76歳で、平均年齢は45.8歳だった。
ICSD-3基準に従ってEHSの存在を定義した初めての研究
研究では、日本人職域におけるEHSの有病率、不眠との関連、不安、抑うつ、疲労、QOLを含むさまざまな尺度との関連について調査した。注目すべきは、同研究がICSD-3基準に従ってEHSの存在を定義した最初の研究という点だ。統計解析の結果、EHSとPHQ-9(抑うつ)、GAD-7(不安)、AIS(不眠)、CFS(疲労)スコアとの間には、人口統計学的変数や睡眠関連変数で調整した後でも有意な関連が認められた。
EHS有病率は1.25%、EHSのある群は疲労・不眠・不安・抑うつなどの症状割合「高」
これまでに世界中で行われたEHSの有病率調査では、対象者の選び方に偏りがあったり、「眠りつくときに爆発音を聞いたことがあるか」といった単一の質問に基づいてEHSと判断するなどの問題があった。一方、同研究は滋賀県甲賀市の市職員を対象に行われ、国際的な疾患分類であるICSD-3の厳密な基準を用いてEHSを調査した点で、従来の研究とは異なるアプローチを取っている。
その結果、EHSの有病率は1.25%と従来の研究の報告よりも低いものの、EHSが決して珍しい疾患ではないことが示された。EHSのある群では、ない群と比べて、疲労、不眠、不安、抑うつなどの症状のある割合が高かった。
EHSがまれな疾患ではないと判明、啓発とさらなる研究が必要
今回の研究成果により、EHSの有病率は日本の職域において1.25%であることがわかった。EHSは、抑うつ、不安、不眠、疲労と有意に関連している。同研究は日本人におけるEHSの有病率を明らかにし、EHSと不眠などのさまざまな心理的要因との関連性を示唆している。88.5%という高い参加率から、本研究の結果は対象集団におけるEHS有病率や状況を切り取って示していると考えられる。
ロジスティック回帰モデルでは、不眠、不安、抑うつ、疲労がEHSと有意かつ独立して関連していた。以前の一部の研究では、EHSの有病率は女性で高く、EHSを報告した人の年齢には有意差があることが示唆されていたが、他の研究と同様に、今回の調査では性差や年齢差は確認されなかった。「EHSは、一般集団におけるまれな疾患ではない。啓発とさらなる研究が必要だ」と、研究グループは述べている。
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・滋賀医科大学 プレスリリース