CKDで見られる脂質異常と加齢の関係は未解明
大阪大学は1月17日、加齢に伴う慢性腎臓病(CKD)における脂質異常のメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院の中村隼医員(腎臓内科学)、医学系研究科の山本毅士特任助教、猪阪善隆教授(腎臓内科学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「JCI Insight」に掲載されている。
![](https://www.qlifepro.com/wp-content/uploads/2025/01/11_30.png)
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
社会の超高齢化に伴い、高齢のCKDおよび透析患者数は増加し、医療的にも社会的にも問題となっている。老化研究が近年著しく進展しているが、老化腎の病態は依然不明な点が多い現状である。また、CKD患者では脂質異常症を認める患者が多いことが知られているが、脂質異常症の発症に加齢がどのように影響しているのか、そのメカニズムは明らかになっていなかった。
そこで研究グループは、老化進行に細胞内小器官であるミトコンドリア・リソソームが関与することを踏まえて、双方の制御因子である転写因子transcription factor EB(TFEB)に着目した。研究グループはこれまでに、TFEBの腎臓の近位尿細管における役割に関して研究し、肥満関連腎臓病や急性腎障害にTFEBが保護的な役割を担うことを明らかにしている。
近位尿細管特異的TFEBノックアウトマウスの一部でAPOA4アミロイドーシス発症
まず、高齢マウス(2年齢)が若齢マウス(6週齢)と比べ、また高齢者が若齢者と比べ、近位尿細管のTFEB核内移行が低下、すなわち活性が低下することを見出した。そこで、加齢に伴い、近位尿細管のTFEBがどのように影響するかを明らかにするために、近位尿細管特異的TFEBノックアウトマウスを作成し、2年齢まで飼育したところ、一部のマウスでAPOA4アミロイドーシスを発症した。原因としてリソソーム機能低下によるAPOA4分解抑制が考えられた。
ヒトAPOA4アミロイドーシス、実際の患者数より多い可能性
また、ヒトAPOA4アミロイドーシス患者でもTFEBの核内移行が低下しており、近位尿細管のTFEB活性はAPOA4アミロイドーシス発症に関与することが示唆された。APOA4アミロイドーシスは、高齢者における緩徐に増悪する腎機能が特徴であるため、腎生検を施行されずに経過をみられている可能性がある。しかしながらCKD患者の血中APOA4は高値を示すことから、APOA4アミロイドーシスの実際の患者数は、現在同定できている患者数より多い可能性がある。
加齢に伴うTFEB活性低下、全身の脂質代謝異常やAPOA4増加に関与の可能性
また、高齢の近位尿細管特異的TFEBノックアウトマウスでは脂肪肝増悪や脂肪肥大などを認め、全身の脂質代謝異常を来していた。電子顕微鏡検査により、リソソーム機能低下に伴うミトコンドリアクリアランス(細胞内で損傷し機能不全に陥ったミトコンドリアを除去する機能)の低下により生じたミトコンドリア障害が全身代謝に影響を及ぼしたことが示唆された。
CKD患者では脂質異常症を認める患者が多いことから、加齢に伴い生じる近位尿細管のTFEB活性低下が脂質代謝異常に関与することが示唆された。また、APOA4は脂質代謝とも密接に関係しており、脂質異常症により生じるAPOA4増加もAPOA4アミロイドーシスの一因と考えられる。
社会の超高齢化に伴い、高齢CKD患者が増加し、医療経済を圧迫している。この喫緊の課題に対して、新たな治療戦略開発が求められている。「本研究により、高齢CKD患者のAPOA4アミロイドーシスによる腎機能増悪や、脂質異常症に対してTFEBを標的とした治療が期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・大阪大学 ResOU