全身性強皮症に、Th17細胞とTreg細胞のバランスの異常がどのように関与するのか?
群馬大学は1月22日、自己免疫疾患「全身性強皮症」の線維化を抑制する新たな治療法の可能性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科 皮膚科学の茂木精一郎教授らの研究グループと、理化学研究所生命医科学研究センター 粘膜システム研究チーム(大野博司チームリーダー)と国立感染症研究所 寄生動物部(下川周子室長)との共同研究によるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
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画像はリリースより
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全身性強皮症は、免疫系の異常を背景に、皮膚や内臓に線維化(組織の硬化)を引き起こす全身性の自己免疫疾患。病気が進行すると皮膚が硬くなり動かしにくくなるほか、内臓にも障害を来たし、呼吸困難や消化不良などの症状が現れ、患者の生活の質を著しく低下させる。しかし現在、強皮症に対する効果的な治療法は限られており病気の進行を完全に止めることは難しいのが実情だ。そのため、病気を早期に発見し進行を抑えるための新たな治療法の開発が切望されている。だが、強皮症の症状、特に皮膚硬化の発症機序については、その詳細なメカニズムはいまだに解明されていない。
これまでの研究により、炎症性の免疫細胞の一種であるTh17細胞が過剰に増加し、強皮症の症状や線維化を悪化させることが報告されている。Th17細胞は、炎症を引き起こすIL-17という物質を分泌し、これが皮膚や内臓の線維化を促進する原因となる。一方で、制御性T(Treg)細胞は免疫系の調整役として知られ、免疫反応を過剰に引き起こさないように抑制する働きを持っている。Treg細胞が正常に機能していると免疫系は自己免疫反応を抑え、身体を守る役割を果たす。しかし、強皮症ではTreg細胞の機能が低下したり、Th17細胞とのバランスが崩れたりすることが多く、その結果、免疫系が過剰に反応し、病気の発症や進行を促進する原因となると考えられている。
このように、強皮症においては「Th17細胞とTreg細胞のバランスの崩れ」が関与することが想定されている。しかし、このバランスの乱れがどのように病態に影響を与え、またそれを調整する方法がどのように作用するのかについては、まだ十分に解明されていない。そこで研究グループは今回、強皮症における皮膚の線維化を引き起こすメカニズムの中で、Th17細胞とTreg細胞のバランスの異常がどのように関与しているのかを調査した。さらに、これらの免疫細胞のバランスを調整することによって強皮症の皮膚線維化を改善する新しい治療法の可能性を探ることを目指した。
全身性強皮症モデルマウスに蠕虫感染でTreg>Th17、線維化・炎症抑制
研究グループは、Treg細胞を活性化することで強皮症におけるTh17/Treg細胞のアンバランスが改善され、線維化の進行が抑制されるのではないかと予想した。この予想を検証するため、Treg細胞を活性化させる手段として消化管寄生虫の一種「蠕虫(ぜんちゅう)」に着目した。蠕虫はヒトでアニサキス症や肺吸虫症などを引き起こす虫の総称で、免疫分野では広く研究されている。蠕虫が宿主のTreg細胞を活性化させることにより、アレルギー疾患や自己免疫疾患の実験モデルで病態を改善することが知られている。
強皮症の皮膚線維化を評価するために、ブレオマイシンを用いて誘発される強皮症に類似した皮膚線維化マウスモデルを使用した。皮膚の線維化は、真皮の肥厚と、コラーゲン量の増加で判断した。
実験の結果、蠕虫に感染したマウスでは、ブレオマイシンにより肥厚した真皮が薄くなり、増加していたコラーゲン量が減少したことから、線維化が抑えられることがわかった。同時に、皮膚へ浸潤した炎症細胞であるT細胞の数も有意に抑えられることが確認された。さらに詳細な解析により、蠕虫感染がTreg細胞を増加させ、Th17細胞を抑制することが明らかになった。実験的にTreg細胞を除去すると、蠕虫感染による線維化抑制効果が消失したため、Treg細胞がTh17/Tregバランスの調整に重要な役割を果たしていることが確認された。
強皮症のTh17/Treg不均衡と線維化進行に腸内細菌叢の変化が関与している可能性
また、蠕虫は腸内に寄生するため、腸内細菌叢が免疫調整に与える影響を調べる目的で、腸内細菌の解析を行った。
その結果、Treg細胞数と正の相関を示す細菌が、マウスのTh17細胞数および皮膚線維化と負の相関を示すことが明らかになった。さらに、強皮症患者の腸内細菌叢を調べたところ、線維化が進行した患者群では特異的な腸内細菌叢の変化が示された。これらのことは、腸内細菌叢の変化が強皮症におけるTh17/Tregの不均衡およびその線維化の進行に関与している可能性を示唆している。
腸内細菌をターゲットにした新規治療法開発や、進行抑制に期待
今回の研究により、強皮症におけるTh17/Treg細胞のバランスを調整することで線維化の抑制が期待できることが明らかにされた。Treg細胞を活性化する新規治療法は従来の免疫抑制療法とは異なり、免疫系の調和を促進する可能性があり、今後より安全で効果的な治療法の開発につながることが期待される。また、腸内細菌叢の変化が強皮症の進行に影響を与えることが示され、腸内細菌をターゲットにした新しい治療法への可能性も示唆された。腸内細菌の調整によって免疫バランスを改善し、強皮症の進行を抑制できる可能性も考えられる。「今後、腸内細菌叢の詳細な解析とその治療への応用が重要な研究課題となる」と、研究グループは述べている。
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