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脳梗塞の新しい細胞療法を開発、単核球による低酸素状態の改善-新潟大ほか

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2025年01月10日 AM09:10

脳梗塞後の血栓溶解療法や機械的血栓除去術、血流が回復しても麻痺などが残存

新潟大学は12月27日、脳梗塞に対するヒト末梢血単核球を用いた新しい細胞療法の作用機序を明らかにしたと発表した。この研究は、同大脳研究所脳神経内科学分野の金山武史大学院生(現・独立行政法人国立病院機構新潟病院医師)、畠山公大助教、金澤雅人准教授、岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野の下畑享良教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Experimental Neurology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

脳卒中は、日本における死因の第4位、寝たきりの原因の第2位となっている。超高齢社会を迎え、脳卒中患者は急増し、3人に1人が脳卒中を発症する時代に突入した。脳卒中のなかでも、血管が詰まることで発症する脳梗塞は、近年増加し、後遺症に苦しむ患者も多く、治療にかかる医療費は増加の一途をたどっている(日本では年間2兆円、さらに経済損失は4兆円)。

脳梗塞慢性期の治療は再発の予防が主体で、機能回復療法はリハビリに限られる。しかし、リハビリでも十分な機能回復を得られず、後遺症をもつ患者が多くいる。近年登場した、(薬により血の塊を溶かす治療)や機械的血栓除去術(血管内に機械を入れて血の塊を除去する治療)は、脳梗塞後の血流回復(再灌流)率を劇的に向上させた。しかし、血流が回復したにもかかわらず、麻痺などの機能障害が残存する患者が多くいることが問題とされてきた。

再灌流後低酸素領域に着目、・低糖刺激ヒト単核球による組織修復作用を検証

再灌流後も機能障害が残存する原因として、研究グループは再灌流後低酸素領域に着目した。一度脳の血流が途絶すると、脳の細かい血管が壊れてしまうため、血流が回復した後も血液が届かず低酸素状態が持続する部位が存在する。この低酸素領域を治療ターゲットとすれば、再灌流後の機能障害を改善できるのではないかと考えた。

これまで、研究グループは血液中に存在する単核球に着目して研究を行い、ヒトの単核球を脳梗塞に類似した環境(すなわち酸素とブドウ糖の濃度が低下した状態)に短時間曝露させると、単核球の組織修復力が活性化することを示した。また、刺激した単核球を脳梗塞ラットに投与することにより、脳梗塞巣での組織修復が改善し、脳梗塞後遺症が改善することを示してきた。そこで、研究グループは、低酸素・低糖刺激ヒト単核球が、再灌流後低酸素領域に作用するのではないか、と仮説を立て実験を行った。

脳梗塞再灌流ラットに投与の低酸素・低糖刺激ヒト単核球、再灌流後低酸素領域に移行

脳梗塞後血流を回復させたラット(脳梗塞再灌流ラット)において、脳梗塞発症1週間後に低酸素・低糖刺激ヒト単核球を投与した。その結果、低酸素・低糖刺激ヒト単核球が再灌流後低酸素領域に移行していることを明らかにした。

投与細胞の移行にSDF-1・CXCR4が関与

また、末梢血が低酸素領域に移行する機序として、SDF-1に着目して検討を行った。SDF-1は血液中の細胞を組織内に誘導する作用を持ち、低酸素状態により誘導されることが知られている。今回の研究においては、再灌流後低酸素領域でSDF-1が発現すること、投与細胞はSDF-1陽性領域に移行することを示した。またSDF-1の信号を受け取るCXCR4についても検討を行い、低酸素・低糖刺激単核球では通常状態の単核球に比べ、CXCR4の発現が増えることを明らかにした。

単核球投与により低酸素状態が改善

さらに、低酸素・低糖刺激単核球を脳梗塞再灌流ラットに投与すると、何もしていない場合に比べ、低酸素状態が改善することを示した。

簡便に調整できる低酸素・低糖刺激単核球、特別な施設がなくても治療可能

この研究において、低酸素・低糖刺激ヒト単核球はSDF-1/CXCR4系を介して、再灌流後低酸素領域に移行し、同部位での低酸素状態を改善する、という一連の機序が明らかにされた。脳血流再灌流に残存する機能障害については、これまで確立された治療法がなかった。今回の研究の結果は、再灌流療法を受けたにもかかわらず後遺症を呈した患者への治療に結びつくものと考えられる。

また今回の研究で用いた低酸素・低糖刺激単核球は、採血で得ることができ、簡便な刺激で細胞を調整できるといった利点がある。この治療が実用化されれば、患者自身の細胞を用いた「自家細胞療法」が可能になり、安全性の高いオーダーメイド医療となる。簡単な操作で細胞を製造できるため、特別な細胞培養施設をもたない一般病院においても治療を普及できる可能性がある。

「現在、採血から細胞の分離、低酸素・低糖刺激までを一貫して行える装置を、産学共同で開発中。本技術は、日本、米国、欧州、中国の特許取得、国際特許出願を行い、臨床応用することを目指して研究を進めている」と、研究グループは述べている。

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