約半数の65歳以上高齢者が関連するフレイル、その代謝学的基盤の多くは未解明
東京都健康長寿医療センター研究所は12月26日、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)を用いたメタボロミクス分析により、高齢者のフレイルと関連する血清代謝物を特定したと発表した。この研究は、同研究所の志田隆史研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Biogerontology」にオンライン掲載されている。
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近年、先進国・開発途上国を問わず、世界的に高齢化が進んでいる。85歳以上の高齢者は世界人口の1.6%を占めるまでになり、平均寿命の延びに伴い、寝たきりや介護を必要とする高齢者の増加も顕著だ。65歳以上のフレイル高齢者の割合は17%に上り、世界で約1億2000万人と推定されている。
日本における65歳以上の高齢者のフレイル、プレフレイル、健康な高齢者の割合は、それぞれ8.7%、40.8%、50.5%とされている。つまり、高齢者の約半数がフレイルまたはプレフレイルの状態にあることになる。フレイル高齢者は身体的のみならず、精神的・社会的な問題のリスクも高く、健康な高齢者に比べて多くの社会的資源を必要とする。一方で、フレイルを含む加齢変化には個人差が大きく、生物学的に非常に複雑なプロセスであるため、その代謝学的基盤についてはいまだ多くが解明されていない。
このような背景を踏まえ、研究グループは地域高齢者のフレイルに関連する代謝物を探索的に分析することを目的とした。研究は、2017年に東京都板橋区で実施された健康調査「お達者健診」(研究代表者:笹井浩行研究副部長)を基に症例対照研究として計画された。今回の研究では、年齢、BMI、既往歴などの背景因子を調整した上で、フレイル高齢者39人と健康な高齢者76人の血清サンプルを分析した。
フレイル高齢者、7つの食事由来の代謝物濃度が有意に低いと判明
約500種類の代謝物を分析した結果、フレイル高齢者では全体的に代謝物濃度が低い傾向が認められ、特に以下の7つの代謝物の濃度が有意に低いことが明らかとなった:カフェイン、カテコール(カフェイン代謝物の一種)、パラキサンチン(カフェイン代謝物の一種)、ナイアシンアミド(ビタミンB3の一種)、5-ヒドロキシメチル-2-フロイ酸(代謝に関わる化合物)、ダイゼイン(大豆イソフラボンの一種で、植物性化合物)、シトシン(DNAやRNAを構成する塩基の一つ)。
一方で、カフェイン、カテコール、パラキサンチン、ナイアシンアミドの濃度が高い場合、健康な高齢者である可能性が高いことが確認された。また、筋力低下、疲労、身体活動低下といったフレイルの各表現型と代謝物の関連性には個別の違いが認められた。さらに興味深い点として、今回の研究で特定された代謝物の多くが食事由来であることが示された。
より具体的な食生活指針につながると期待
今回の研究は、フレイルの生物学的基盤を解明し、予防策の構築に貢献することを目指している。今回の研究により、カフェイン、カテコール、パラキサンチン、ナイアシンアミドなどの代謝物がフレイルと関連していることが明らかになった。これらの多くが食事由来であることから、食事や栄養がフレイルの発症や予防に関連している可能性が示唆される。「今後の研究により、より具体的な食生活の指針が明らかになることが期待される」と、研究グループは述べている。