タクシーの運転手はアルツハイマー病になりにくい?
タクシーや救急車の運転手に求められる、交通渋滞をうまく切り抜けるための頭の回転の速さと優れた反射神経は、アルツハイマー病の予防に役立つ可能性があるようだ。タクシー運転手や救急車の運転手でのアルツハイマー病による死亡率は、検討したあらゆる職業の中で最も低いことが明らかになった。一方で、同じ交通手段の運転手でも、決まったルートを行き来するバスの運転手やパイロットでは、このようなメリットは得られないことも示された。この研究結果は、「The BMJ」に12月17日掲載された。
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論文の筆頭著者である米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のVishal Patel氏は、「われわれが周囲の世界をナビゲートする際に使う、認知空間マップの作成に関与する脳の同じ領域が、アルツハイマー病の発症にも関与している。このことからわれわれは、リアルタイムの空間処理とナビゲーション処理を必要とするタクシーや救急車の運転手では、他の職業の人に比べてアルツハイマー病による死亡の負担が軽減されている可能性があるとの仮説を立てた」と今回の研究背景について説明している。
Patel氏らはこの仮説を検証するために、米国のNational Vital Statistics Systemの死亡証明書に関するデータを用いて、443の異なる職業に従事する897万2,221人の死亡記録を分析した。調査期間は2020年1月1日から2022年12月31日までとした。
その結果、3.88%(34万8,328人)が、アルツハイマー病が原因で死亡していることが判明した。アルツハイマー病を原因とする死亡率は、タクシーの運転手で1.03%(171/1万6,658人)、救急車の運転手で0.74%(10/1,348人)と低かったが、バスの運転手では3.11%(1,345/4万3,295人)、パイロットでは4.57%(387/8,465人)、船長では2.79%(117/4,199人)に上った。さらに、死亡時の年齢とそのほかの社会人口統計学的因子を調整して解析した結果、タクシーと救急車の運転手は、調査した全ての職業の中でアルツハイマー病による死亡率が最も低いことが示された(タクシーの運転手:1.03%〔95%信頼区間0.87〜1.18%〕、救急車の運転手:0.91%〔同0.35〜1.48%〕)。
論文の上席著者である米マサチューセッツ総合病院のAnupam Jena氏は、「われわれの研究結果は、タクシーや救急車の運転手では脳の海馬やその他の領域に神経学的な変化が生じており、それがアルツハイマー病の発症率の低さにつながっている可能性があることを浮き彫りにしている」と述べている。海馬は短期記憶を長期記憶に移すのに役立つ脳の領域であり、ナビゲーションや感情処理においても役割を果たしている。
ただし研究グループは、「これは観察研究であり、これらの職業とアルツハイマー病のリスク低下との間の直接的な因果関係を証明するものではない」と強調している。 Jena氏は、「われわれは、これらの研究結果を決定的なものというより仮説を立てるためのものとして捉えている。しかし、職業がアルツハイマー病による死亡リスクにどのような影響を与えるのか、また認知活動が予防効果を持つ可能性について考慮することの重要性を示唆していることは明らかだ」と述べている。
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