アジア人に多い非喫煙者のEGFR変異肺腺がん、その理由やメカニズムは未解明
国立がん研究センターは12月23日、EGFRという遺伝子の変異を原因として発生する肺腺がんの発生の危険要因を調べ、遺伝子多型と呼ばれる遺伝子の個人差の積み重ねにより、EGFR変異を持つ肺腺がんへの罹りやすさは、8.6倍高まることを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター研究所ゲノム生物学研究分野の白石航也ユニット長、河野隆志分野長、愛知県がんセンターがん予防研究分野の松尾恵太郎分野長らのほか、全国11施設からなる共同研究グループによるもの。また、今回の研究は、アジア人女性の肺がんの原因解明を目指す国際共同研究FLCCA(Female Lung Cancer Consortium in Asia)の一部として行われた。研究成果は、「Journal of Thoracic Oncology」にオンライン掲載されている。
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肺がんは日本では年間12万人が罹患し、がんにおいて最も死亡率が高く、約7万6,000人の死亡原因となっている。肺腺がんは最も多いタイプの肺がんで、半数弱は非喫煙者に発生することから、禁煙以外の予防法や早期発見の方法が強く求められている。特に、日本を含めたアジアの国では、EGFRという遺伝子の変異を原因として発生する肺腺がんが非喫煙者に多いことが知られており、なぜこのようながんがアジア人に多いのか、メカニズムの解明が期待されている。
これまでの研究で、EGFR変異を持つ肺腺がんへの罹りやすさには、HLAクラスII遺伝子やテロメア制御遺伝子などの個人差(遺伝子多型)が危険因子であることを明らかにしてきた。今回の研究では、遺伝子多型の積み重ねによる危険度を数値化し、どの程度、肺がんのリスクに影響しているかを調査した。
患者998人含む東アジアの非喫煙者女性のゲノム解析実施、ポリジェニックリスクスコア算出
対象としたのは、日本、台湾、中国、香港、シンガポール、韓国からなる東アジアの非喫煙者女性に発生した肺腺がん。患者998人と肺がんに罹患していない非喫煙者女性4,544人について、全ゲノムにわたる遺伝子多型を明らかにし、遺伝子多型の積み重ねによる危険度をあらわすポリジェニックリスクスコアを算出した。その際、EGFR変異を持つ肺腺がんとEGFR変異を持たない肺腺がんとの間で差があるかを比較した。
EGFR変異持つ肺腺がんのリスク、危険度最も高いグループは低いグループの8.6倍と判明
遺伝子多型の積み重ねによる危険度に基づいて集団を4等分し、最も危険度の低い25%グループ(Q1)の危険度を1としたときに、他の3グループ(それぞれ25%)の危険度が何倍上昇するかを算出した。
その結果、遺伝子の個人差の積み重ねにより、EGFR変異を持つ肺腺がんへの罹りやすさは8.6倍高まることがわかった。一方でEGFR変異を持たない肺腺がんへの罹りやすさは3.5倍に留まった。つまり、EGFR変異を持つ肺腺がんの方が、EGFR変異を持たない肺腺がんと比べて、より強く遺伝子多型の影響を受けて発症することが明らかになった。
遺伝子情報から高危険群を予測、早期発見に役立つと期待
今回の研究により、アジア人に多いEGFR変異を持つ肺がんの罹りやすさは、遺伝子多型の積み重ねによって大きく影響を受けていることが明らかになった。同研究では東アジア人として危険度を算出したが、今後は日本人としての危険度の算出も行われる予定。「このような遺伝子の情報をもとに、EGFR変異陽性の肺がんに罹りやすい人(高危険群)を予測し、検診により早期発見できる可能性があると考える。本研究成果をもとに、効果的な肺がんの早期発見手法を開発し、日本やアジアでの肺がん死亡の減少を目指していく」と、研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース