免疫が健全なマウスで、フェノタイプスイッチを起こしたメラノーマ細胞の免疫学的特徴を解析
埼玉医科大学は12月16日、過分化メラノーマ細胞の免疫学的特徴を解明したと発表した。この研究は、同大医学部の安藤優希枝氏(医学部6年、研究医養成プログラム履修生(微生物学))、堀内大講師(微生物学)、村上孝教授(同)らの研究グループによるもの。研究成果は、「OncoImmunology」にオンライン掲載されている。
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メラノーマは代表的な難治性皮膚悪性腫瘍として知られている。分子標的療法や免疫療法など有効な治療法の開発が進む一方、治療抵抗性を容易に獲得することが治療上の大きな問題となっている。
近年、メラノーマの治療抵抗性獲得の第一段階として、フェノタイプスイッチと呼ばれる現象が注目されている。これは、抗がん治療などによってダメージを受けつつも、細胞死に至らなかったメラノーマ細胞が自身の分化状態を変化させる現象を指す。このように変化したメラノーマ細胞は、薬剤や免疫応答による傷害を受けにくい状態となって、抗がん治療を耐えて生存できるようになる。その結果、将来の臨床的再発や薬剤耐性変異の獲得がもたらされると考えられている。
メラノーマのフェノタイプスイッチに関する研究は、分子標的阻害薬に曝露したヒトメラノーマ細胞を免疫不全マウスに異種移植して進められた研究がほとんどを占めている。免疫不全マウスが用いられてきた背景として、ヒト細胞の移植に対して免疫応答が生じず、拒絶反応が起らないことが生かされている。翻って、このことは免疫不全マウスを用いた研究では、メラノーマ細胞に対する免疫応答を検討することができなかったことを意味する。
今回、研究グループは免疫が健全なマウスを用いたモデルを採用し、フェノタイプスイッチを起こしたメラノーマ細胞における免疫学的な特徴を明らかにすることを試みた。
スタウロスポリンでフェノタイプスイッチさせた過分化メラノーマ細胞、免疫原性高いが免疫抵抗性
研究では、一般的なマウスメラノーマ細胞株であるB16F10に放線菌由来の殺細胞性化合物であるスタウロスポリンを低用量で曝露した。すると、ほとんどの細胞が細胞死に至るものの、わずかに生存した細胞はメラノサイト分化関連分子が高発現した「過分化状態」となることを見出した。この過分化メラノーマ細胞は、細胞周期の停止、細胞死抵抗性の亢進など、ヒト臨床メラノーマでの治療抵抗性過分化細胞と相同の性質を有していた。そこで、この細胞を用いて過分化メラノーマが免疫学的に排除可能か否か、完全に機能する免疫系をもつ同種移植モデルマウスを用いて検討を進めた。
結果、通常の状態と比較して、過分化状態のB16F10メラノーマ細胞は、マクロファージや樹状細胞から貪食を受けやすくなっており、加えて、これら貪食細胞の活性化を促した。また、過分化メラノーマ細胞をマウスに接種すると腫瘍細胞由来抗原に特異的に反応するリンパ球の活性化が確認された。しかし、通常状態と比較して過分化状態のメラノーマ細胞は、抗原特異的活性化リンパ球による細胞傷害を受けづらくなっていることが確認された。このことは、過分化状態のメラノーマ細胞が腫瘍抗原に対する免疫応答を誘導できる高い免疫原性を持っているにもかかわらず、免疫学的排除に対しては強い抵抗性を持っていることを示している。
免疫チェックポイント分子の働き抑制で、過分化メラノーマ細胞は免疫学的に排除される
この免疫回避のメカニズムを明らかにすべく、過分化メラノーマ細胞表面の免疫関連分子の発現を解析すると、免疫チェックポイント分子PD-L1を強く発現していることが判明した。
そこで、過分化メラノーマ細胞を移植したマウスモデルを作製し、そこに免疫チェックポイント阻害抗体を加える実験を行なって腫瘍病態の進展を観察し続けたところ、免疫チェックポイント分子の働きが抑えられることで、過分化メラノーマ細胞が免疫学的に排除されることが証明された。
開発された過分化メラノーマモデル、難治性メラノーマの治療法開発に役立つ可能性
今回の研究により、一般的なマウスメラノーマ細胞でも過分化状態にフェノタイプスイッチさせることが可能となり、それを免疫健常マウスに移植した腫瘍モデル動物が作製可能になることが示された。
「この過分化メラノーマモデルは治療抵抗性メラノーマの発生機序や生体内での挙動の理解を深めるために有用であり、より有効な治療法の開発に貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
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