過剰ろ過は糖尿病性腎症の前段階、早期発見・早期治療介入が必要
大阪公立大学は12月10日、腎移植ドナー候補者180人の正確なGFRを測定し、年齢およびGFR値から、過剰ろ過の判断値を算出する新たな数式を定義したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学の津田昌宏講師らの研究グループによるもの。研究成果は「Hypertension research」に掲載されている。
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血液透析が必要な末期腎不全患者は約34万人にのぼり、その原因の40%以上が糖尿病である。糖尿病の発症やさまざまな合併症の進行には、肥満やそれに伴うインスリン抵抗性が深く関与しており、合併症を防ぐためには、早期発見・早期治療介入が必要だ。糖尿病性腎症は、糸球体ろ過量(GFR)とアルブミン尿の測定から診断される。アルブミン尿は、糸球体内圧の上昇による過剰ろ過(一時的にGFRが上昇する)が原因で排出され、その量が多くなると血管にまつわる病気や透析のリスクが高まる。病状が進行すると、GFRが低下する腎不全期となり、末期腎不全となれば透析が必要だ。一方で、GFRは加齢とともに低下することが知られており、糖尿病の高齢発症により、アルブミン尿がでる前から(過剰ろ過の時期を経ずに)GFRが低下している人が増えている。
eGFRからは過大評価か過剰ろ過かの判別が困難
過剰ろ過は、GFRの値が125-140mL/min/1.73m2以上であると定義されている報告が多いが、加齢によるGFRの低下は考慮されておらず、はっきりとした定義付けはされていない。またGFRを評価する際、体格による違いを補正する(体表面積補正)ことが一般的であるが、肥満の症例では体表面積補正によりばらつきが生じる傾向があり、過剰ろ過を同定できないこともある。
さらに、GFRの主な評価手法のイヌリンクリアランスは手順が煩雑なため、血清クレアチニンと年齢、性別から算出される推算糸球体ろ過量(eGFR)で評価することが一般的だ。しかし、eGFRは筋肉量の影響を受けやすく、その値が高値であっても、過大評価か過剰ろ過かを判別することができない。そこで研究グループは、腎移植ドナー候補者に対してイヌリンクリアランスを行い、体表面積補正を実施しなかった場合のGFRを用いて、年齢を考慮した過剰ろ過の定義を行った。
腎移植ドナー候補180人を対象にGFRおよびRPF測定、肥満・糖代謝異常なし群と比較
合併症や既往歴、内服歴、喫煙歴がなく、正常アルブミン尿の腎移植ドナー候補者180人(男性77人、女性103人)を対象とし、イヌリンクリアランス(GFR)測定および、腎血漿流量を正確に測定するためのパラアミノ馬尿酸クリアランス(RPF)測定を行った。加えて、糖代謝異常の有無を調べ、肥満の有無、糖代謝異常の有無の組み合わせで、対象者を4つのグループ【Group1肥満なし、糖代謝異常なし74例、Group2肥満あり、糖代謝異常なし14例、Group3肥満なし、糖代謝異常あり63例、Group4肥満あり、糖代謝異常あり29例】に分け、Group1を正常群として比較検討した。
従来定義では高齢者で検出できない症例あり、年齢を含む新数式を提案
体表面積補正を行ったGFRでは、各群において有意差はなかったが、体表面積補正を行わず評価したGFRでは、Group4で有意に高い状態だった。さらに、RPFおよび畜尿検査で評価したアルブミン尿(UAE)は、Group4で有意に高い状態だった。Gropu4ではRPF、体表面積補正を行っていないGFRおよびUAEが高いことから、過剰ろ過であることがわかるが、体表面積補正をしたGFRは高くなく、過剰ろ過を同定できないこと意味している。
次に、年齢とGFRとの関連性を検討したところ、先行研究での報告通り負の相関関係であること、つまり加齢によりGFRが低下することを確認した。これらを踏まえ、正常群(Group1)における年齢とGFRの二変量解析の95%信頼区間を検討し、過剰ろ過を定義する新しい数式(GFR=-0.883×Age+167.398)を提案した。同式では過剰ろ過となるが、先行研究での定義値では過剰ろ過とならない症例が2例あり、いずれも60歳以上の高齢者だった。これにより、高齢者ではGFRの低下により過剰ろ過であっても検出できない症例が存在することがわかった。
体表面積補正を行ったGFRでは、肥満や糖代謝異常による過剰ろ過を同定できないと再確認
さらに、肥満の存在(BMI>25kg/m2)および糖代謝異常の存在は、それぞれ体表面積補正を行わないGFRと正の独立した関連があったが、体表面積補正を行ったGFRとは関連がなかった。このことから、先行研究での報告通り、体表面積補正を行ったGFRでは、肥満や糖代謝異常による過剰ろ過を同定できないことも改めて確認された。
過剰ろ過の正確な検出はeGFRでは難しく、イヌリンクリアランスの測定が必要であるが、測定が煩雑なことから一般的な病院では測定が困難だ。また、測定できたとしても、加齢によるGFRの低下が考慮されていなかったため、過剰ろ過が存在するという認識がされていなかった。「今回提案した新しい数式は今後その有効性の検証が必要だが、より尿検査(アルブミン尿)の重要性が増したと考えている」と、研究グループは述べている。
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・大阪公立大学 プレスリリース