TP53シグネチャーによる予後予測の臨床的有用性は既証明
東北大学は12月11日、乳がんの新しい診断方法として、メッセンジャーRNA(mRNA)の発現パターン(TP53シグネチャー)により、乳がんの予後(全生存期間)、手術後の再発(無増再発存期間)、手術前の抗がん剤治療(術前化学療法)の効果(病理組織学的完全寛解)を予測できる方法を開発したと発表した。この研究は、同大病院腫瘍内科の石岡千加史客員教授(学術研究員)、高橋信臨床准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Translational oncology」に掲載されており、11月12日に、「乳がんの予後の判定方法」として特許を取得している。
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日本で乳がんは女性のがん罹患者数第1位、死亡者数では第4位であり、その数は増加傾向だ。乳がん症例の予後予測を正確に行うことは困難であり、リスクの回避の観点から治療強度が強い治療方法が選択されることが多く、リスクの過剰評価や過剰治療につながっている可能性がある。このため、予後や治療効果を正確に予測可能な診断薬が必要だ。
がん抑制遺伝子であるTP53は、多くのがんにおいて最も高頻度に変異が認められる遺伝子だ。乳がんにおいても約半数で変異が認められ、変異がある乳がんは変異がない乳がんよりも予後が不良であることが知られている。石岡客員教授らはこれまでに、乳がんを対象とした網羅的なメッセンジャーRNA(mRNA)の発現量解析から、TP53遺伝子変異の有無を予測する遺伝子発現パターン(TP53シグネチャー)を見出していた。また、TP53シグネチャーが乳がん症例の予後を予測可能であること、TP53シグネチャーはTP53遺伝子変異よりも予後の予測性が高いことを示していた。さらに、TP53シグネチャーが手術前の抗がん剤治療(術前化学療法)の効果(病理組織学的完全寛解)を予測できることも示していた。
TP53シグネチャーの臨床的な有用性については、国内外の複数の研究者によっても検証されている。特に、約7,000例の乳がんデータを用いて行われた横断研究の結果、TP53シグネチャーは、予後を最も高精度に予測できる診断方法の一つであることが示されていた(351の診断方法中、第2位)。
TP53シグネチャーの簡便な診断方法を開発、日本人800例対象に有用性検証
今回、研究グループは、253例の日本人乳がん組織を用いて、TP53シグネチャーの簡便な診断方法を開発した。さらに、国内臨床研究グループの協力を得て、800例の日本人の乳がん組織を用いて、開発した診断方法の臨床的有用性を検証した。具体的には、TP53シグネチャーにより TP53遺伝子変異ありパターン群および変異なしパターン群に分類し、抗がん剤治療の治療効果および予後について比較した。
無増再発存期間、術前化学療法の病理組織学的完全寛解を予測可能
その結果、術前化学療法の効果(病理組織学的完全寛解)はオッズ比5.599(95%信頼区間:1.876−16.705, p=0.0008)、手術後の再発(無増再発存期間)はハザード比1.82(95%信頼区間:0.91−3.64, p=0.084)と、予測可能であることを示した。また TP53遺伝子変異ありパターン群では術前化学療法により予後が改善する(ハザード比1.31,95%信頼区間:0.65−2.64, p=0.45)一方で、TP53遺伝子変異なしパターン群では術前化学療法により予後の改善が認められない(ハザード比4.81,95%信頼区間:1.59−14.54, p=0.0025)ことを示した。
保険診療で使用できる体外診断薬となることに期待
以上の結果より、術前化学療法のメリットはTP53遺伝子変異ありパターン群では大きい一方で、TP53遺伝子変異なしパターン群では乏しいことが明らかになった。これは、抗がん剤治療のメリットが大きい症例にのみ抗がん剤治療を提供できる個別化医療(術前化学療法の最適化)の進歩に寄与する成果だ。研究グループは、これらの成果から、乳がんの予後の判定方法として特許を取得した(特許第7587251号)。「産学連携の共同研究により、保険診療で使用できる体外診断薬として開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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