医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 抗がん剤ドキソルビシン心毒性、ダントロレン予防投与で改善の可能性-山口大

抗がん剤ドキソルビシン心毒性、ダントロレン予防投与で改善の可能性-山口大

読了時間:約 2分44秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年12月18日 AM09:20

ドキソルビシン副作用の心毒性、治療法がない

山口大学は12月11日、抗がん剤ドキソルビシンによる心毒性を短期間のダントロレン投与により予防できることを発見した。この研究は、同大大学院医学系研究科器官病態内科学講座の中村吉秀助教、佐野元昭教授、矢野雅文山口大学名誉教授、大学院医学系研究科病態検査学講座の山本健教授、医学部高齢者心不全治療学講座の小林茂樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JACC:CardioOncology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

アントラサイクリン系抗がん剤ドキソルビシンの持つ強力な抗腫瘍効果は重要だが、その反面、副作用である心毒性の克服が大きな課題となっている。一度心不全が生じると、がん治療を続けることが難しくなり、また、その心機能障害は不可逆的であるため、患者の大きな負担となる。ドキソルビシンによる心毒性の発症機序としては、ミトコンドリア障害、酸化ストレス、細胞内Ca2+過負荷、小胞体ストレスなどが報告されてきたが、ひとつとして臨床の現場に還元された治療法はない。

心機能障害などを生じる異常なCa2+漏出、悪性高熱症薬ダントロレンが抑制

心筋の筋小胞体(SR)のCa2+放出チャネルであるRyR2は、心筋細胞の興奮収縮連関において重要な役割を果たしている。一方で、RyR2からの異常なCa2+漏出は心機能障害や致死的な不整脈を引き起こす。

研究グループは、心不全やカテコラミン誘発多形性心室頻拍(CPVT)において、RyR2内のドメイン間相互作用の欠陥により、修飾タンパク質カルモジュリンがRyR2から解離し、チャネルの四量体構造が不安定化することで、Ca2+漏出が引き起こされるという証拠を積み重ねてきた。さらに、骨格筋型リアノジン受容体(RyR1)の点突然変異による悪性高熱症に対する特効薬ダントロレンがRyR2にも結合して、カルモジュリンとの結合親和性を高めてチャネルを安定化させ、Ca2+リークを抑制することを明らかにしてきた。

RyR2のカルモジュリン結合強化マウス作製、CPVTモデルマウスと交配で心室頻脈抑制

そして今回、RyR2のカルモジュリン結合ドメインに1アミノ酸変異(V3599K)を導入し、カルモジュリン結合親和性を強化したRyR2 V3599Kノックイン(KI)マウスの作製に成功。このマウスとCPVTモデルマウスを交配させると、異常なCa2+漏出が消失し、心室頻拍が完全に抑制された。ドキソルビシンが筋小胞体のRyR2からCa2+の漏出を誘導し、細胞質内のCa2+レベルを上昇させることは以前から知られていた。研究グループは、ダントロレンがRyR2の四量体構造安定化によってドキソルビシン誘発心筋症を予防できるのではないかと考えて実験を行った。

ドキソルビシンで心筋細胞RyR2からカルモジュリン解離、抑制薬ダントロレンで心筋保護効果

単離心筋細胞において、ドキソルビシンはRyR2からのカルモジュリンの解離、顕著なCa2+の漏出を引き起こした。これらは、RyR2のカルモジュリン結合親和性を薬理学的(ダントロレンによる)または遺伝学的(RyR2 V3599K変異による)に増強することにより抑制された。ドキソルビシン誘発心筋症モデルマウスでは心臓の線維化と収縮力の低下が見られ、小胞体ストレスに対する耐性の低下を示唆するグルコース調節タンパク質78(GRP78)の発現低下とフェロトーシスにつながる脂質過酸化の亢進が観察された。これらは全て、ダントロレンの持続投与やRyR2 V3599K変異によって改善した。

ドキソルビシンを単回腹腔内投与し、経時的にマウスから採取した心筋細胞内のドキソルビシン蛍光を測定。ドキソルビシン蛍光は日ごとに減弱し、注射後3日目には自家蛍光と比較して有意差は無くなった。つまり、ドキソルビシンは心毒性のみ残しそれ自体は細胞内に蓄積・残存しないことがわかった。実際、ダントロレンはドキソルビシン最終投与から7日目で中断しても持続投与した場合と同様の心筋保護効果を示した。

ドラッグリポジショニングでの臨床応用に期待

ダントロレンの予防投与は、ドキソルビシンによる心毒性を回避しつつ抗がん剤治療を続けられる新たな治療戦略として期待される。また、ダントロレンは既に臨床で使用されている薬剤であるため、ドラッグリポジショニングによって近い将来の臨床応用が期待される、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 白血病関連遺伝子ASXL1変異の血液による、動脈硬化誘導メカニズム解明-東大
  • 抗がん剤ドキソルビシン心毒性、ダントロレン予防投与で改善の可能性-山口大
  • 自律神経の仕組み解明、交感神経はサブタイプごとに臓器を個別に制御-理研ほか
  • 医学部教育、情報科学技術に関する13の学修目標を具体化-名大
  • 従来よりも増殖が良好なCAR-T細胞開発、治療効果増強に期待-名大ほか