コアカリにも「情報・科学技術を活かす能力」が登場、学修目標を検討
名古屋大学は12月10日、日本の医学部教育における「情報・科学技術を活かす能力」の獲得のために必要な学修目標を初めて具体化し、「倫理とルール」「原理」「活用」の3つのテーマに分類される13の目標が決定されたことを明らかにした。この研究は、同大医学部附属総合医学教育センターの尾上剛史病院講師(附属病院糖尿病・内分泌内科兼任)、髙見秀樹病院講師(附属病院消化器・腫瘍外科兼任)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Medical Teacher」に掲載されている。
画像はリリースより
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近年、電子カルテの普及、人工知能(AI)による診断支援、さらには遠隔医療の拡大など、情報通信技術(ICT)は医療分野において急速に進展している。COVID-19パンデミックを契機に、ICTの重要性はさらに高まっている。しかし、こうした技術の普及に対し、医療従事者がICTを倫理的かつ効果的に活用する能力を育成するための教育体制は十分に整備されているとは言えない。
2022年、文部科学省の委託のもと医学教育モデル・コア・カリキュラム令和4年度改訂版作成にあたった日本医学教育学会のモデル・コア・カリキュラム改訂等に関する調査研究チームは、医師として求められる基本的な資質・能力に「情報・科学技術を活かす能力」を新たに追加した。そこで、今回の研究ではその改訂作業の一環として、医学部教育における情報科学技術に関する具体的な学修目標を検討した。
「倫理観とルール」をテーマに5つの目標設定、SNS投稿に関する項目も
研究グループは、文献調査と2回にわたる医学教育関係者へのパネル調査を実施。「発展し続ける情報化社会を理解し、人工知能等の情報・科学技術を活用しながら、医学研究・医療を実践する」という全体目標を掲げ、さらに、3つのテーマに分類された13の学修目標を特定した。
テーマの1つ「情報・科学技術に向き合うための倫理観とルール(IT-01)」については「医学研究・医療等の場面で、情報科学技術を取り扱う際に必要な倫理観・デジタルプロフェッショナリズム及び基本的原則を理解する」と目標を置き、詳細な5つの学修目標を設定した。
具体的には、「情報・科学技術に向き合うための準備(IT-01-01)」として、
・情報・科学技術を医療に活用することの重要性と社会的意義を理解している(IT-01-01-01)
・医療における情報・科学技術に関連する規制(法律、ガイドライン等)の概要を理解している(IT-01-01-02)
・デジタル情報や科学技術の活用における社会的格差が医療や福祉にもたらす影響や倫理的問題を議論できる(IT-01-01-03)
また、「情報・科学技術利用にあたっての倫理観(IT-01-02)」として、
・電子カルテをはじめとする医療情報の管理・保管の原則について理解し、関連する規制(法律、倫理基準、個人情報保護のための規定等)を遵守できる(IT-01-02-01)
・ソーシャルメディア(インターネット、SNS等)の利用において、医療者として相応しい情報発信の在り方を理解し、実践できる(IT-01-02-02)
という目標を置いた。
情報端末の利用、人工知能、遠隔医療技術の応用に関する目標設定
2つ目のテーマは「医療とそれを取り巻く社会に必要な情報・科学技術の原理(IT-02)」。安全かつ質の高い医学研究・医療に必要な情報・科学技術に関する基本理論を理解し、その知識を自身の学修や医療へ適応する姿勢を体得することを目標に、4つの学修目標を定めた。
「情報・科学技術を活用した医療(IT-02-01)」として、
・情報端末(コンピューター、スマートフォン等)を用いてインターネットやアプリ等を医療の実践に活用できる(IT-02-01-01)
・情報・科学技術を用いて収集した情報及びデータを基に問題解決を図る(IT-02-01-02)
また、「情報・科学技術の先端知識(IT-02-02)」として、
・医療に関連する情報・科学技術(医療情報システム、ウェアラブルデバイス、アプリ、人工知能、遠隔医療技術、IoT等)を理解し、それらの応用可能性について議論できる(IT-02-02-01)
・情報・科学技術の専門家とともに、技術を医療へ応用する際に、医療者に求められる役割を理解している(IT-02-02-02)
という目標を置いた。
ICTツールの実践スキル、デジタルコミュニケーションスキルの修得目標も
テーマ3つ目は「診療現場における情報・科学技術の活用(IT-03)」で、遠隔医療を含む患者診療、学修の最適化に有効なICTツールの実践スキル及びデジタルコミュニケーションスキルを修得することを目標に、4つの学修目標を定めた。
「情報・科学技術を活用したコミュニケーションスキル(IT-03-01)」として
・電子カルテの特性を踏まえた適切な記載や活用ができる(IT-03-01-01)
・遠隔コミュニケーションの在り方を理解し、その目的に応じて適切なツール(電子メール、テレビ会議システム、SNS等)を選択し利用できる(IT-03-01-02)
「情報・科学技術を活用した学習スキル(IT-03-02)」として
・自己学習や協同学習の場に適切なICT(eラーニング、モバイル技術等)を活用できる(IT-03-02-01)
・新たに登場する情報・科学技術を自身の学び及び医療に活用する柔軟性を有する(IT-03-02-02)
とした。
「この成果は、情報・科学技術を活用した医療・医学研究の展開にあたり、次世代医師に求められる能力を具体化するもの。個々の技術の修得だけでなく、新しい技術を扱う上で重要な倫理観や学習の態度を重視したこれらの学修目標は、科学の進歩によって新しい技術が次々と登場しても、意味のあるものであり続けると考えられる。今回設定された学修目標に基づき、今後は医学部のカリキュラムの見直しが進み、デジタル時代に適応した医師の輩出が期待される。また、他国の医療教育のモデルケースに成り得る」と、研究グループは述べている。
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・名古屋大学 研究成果発信サイト