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白血病関連遺伝子ASXL1変異の血液による、動脈硬化誘導メカニズム解明-東大

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2024年12月18日 AM09:30

クローン性造血で主要なASXL1変異、心血管疾患の強いリスク因子だが因果関係不明だった

東京大学は12月11日、白血病で認められるASXL1変異を有するクローン性の造血が、動脈硬化を誘導するメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院薬学系研究科の北村俊雄特任研究員(兼任 神戸医療産業都市推進機構先端医療研究センターセンター長)、佐藤成特任研究員、新領域創成科学研究科の合山進教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Cardiovascular Research」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

一見健康なヒトの血液中に白血病関連遺伝子変異を有する細胞が存在することが報告され、(Clonal Hematopoiesis:CH)と呼ばれている。CHは高齢者に多く、65歳以上の人の10人に1人が有する。CHの存在は造血器腫瘍だけではなく、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管疾患、、固形がん、骨粗しょう症、感染症など、さまざまな疾患のリスク因子となることが注目されている。CHの主要な遺伝子変異の一つ「ASXL1変異」は心血管疾患に対する最も強いリスク因子であることが疫学研究で示されたが、その因果関係は不明だった。

研究グループは以前、C末端欠損変異型ASXL1(-MT)が血液細胞特異的に発現するASXL1-MT cKIマウスを樹立していた。今回このマウスを利用して、変異型ASXL1が動脈硬化症を促進することを世界で初めて明らかにすると同時に、その原因を解明した。

血球細胞特異的なASXL1のC末端変異は動脈硬化マウスの病態亢進

研究ではLDLコレステロール受容体ノックアウトマウスを高脂肪・高コレステロール食で飼育して動脈硬化を誘導する実験系を利用した。この動脈硬化モデルにASXL1-MT cKIマウス骨髄を移植したところ、好中球・単球が増加し動脈硬化病変が増悪した。ASXL1-MT cKIマウス細胞を移植したマウスの動脈硬化病変では、動脈硬化の原因となる単球・マクロファージの自然免疫応答が亢進し炎症が起こっていた。

ASXL1はTLR下流シグナルを制御し自然免疫応答を抑制すると判明

この原因を究明するため、さらに実験を進めたところ、野生型ASXL1が自然免疫に重要な働きをするToll様受容体(TLR)の下流のシグナル伝達分子IRAK1とTAK1の結合阻害を介して炎症反応を抑制するという細胞質内におけるASXL1の新機能が判明した。

変異ASXL1による炎症性マクロファージ増加と動脈硬化増悪、IRAK阻害剤で改善

一方、IRAK1との結合能を失ったASXL1-MTはこの炎症性シグナルを抑制する機能を失い、そのことによって炎症が増悪・遷延化することがわかった。ASXL1-MTによる炎症性単球・マクロファージの増加と動脈硬化の増悪はIRAK1/4阻害剤によって改善した。

ASXL1が関与する心筋梗塞に、IRAK阻害剤が効果を発揮する可能性

今回の研究成果により、白血病関連のASXL1変異を有する骨髄細胞が動脈硬化を増悪させることが世界で初めて見出された。さらにその原因を明らかにすることにより、変異型ASXL1による動脈硬化がIRAK阻害剤で抑制できることも判明した。最近、臨床試験において抗IL-1抗体による治療(CANTOS試験)が試みられたが、クローン性造血を有する心筋梗塞後患者のうち、再梗塞を抑制できたのはTET2変異を有する患者のみだった。

「TET2が関与する心筋梗塞にはIL-1阻害剤が有効であることが判明し注目を集めているが、本研究はエピゲノム因子ASXL1が関与する心筋梗塞に、IRAK阻害剤が効果を発揮する可能性を示している」と、研究グループは述べている。

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