CAR-T療法単独では寛解後の再発が課題、CAR-T細胞が長期増殖できないことが一因
名古屋大学は12月11日、従来のキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞よりも増殖が良好なCAR-T細胞を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学分野の安達慶高大学院生、寺倉精太郎講師、清井仁教授、ウイルス学分野の佐藤好隆准教授、名古屋市立大学医学系研究科 ウイルス学分野の奥野友介教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。
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CD19を標的としたCD19CARを発現するように遺伝子を改変したCD19CAR-T細胞が、再発・難治B細胞性悪性腫瘍で有望な結果を示すことが明らかとなり、臨床応用された。キメラ抗原受容体(CAR)-T療法は、Tリンパ球にキメラ抗原受容体と呼ばれるタンパク質を発現させることによって、腫瘍表面に出ている抗原タンパクをTリンパ球に認識させる治療。これによりCAR-T細胞は腫瘍細胞に結合・傷害し、次いでサイトカインと呼ばれるタンパク質を放出して免疫を活性化したり、自己増殖してさらにCAR-T 細胞を増やしたりするなどの働きがある。これまで治癒が望めなかったリンパ腫患者に50%程度の長期寛解をもたらす画期的な治療として注目されている。しかし、CD19CAR-T療法単独では、治療反応の良い急性リンパ性白血病患者においても半数は一度寛解に至った後に再発し、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の患者においてはさらに奏効率は低下する。要因の一つは、CAR-T細胞が生体内において長期間増殖が維持されないという現象だ。
そこで研究グループは今回、CAR-T細胞の増殖を制御する未知の遺伝子を探索すべく、ゲノムワイド(GW)CRISPRスクリーニングの手法を用いて、CAR-T細胞増殖制御に関わる遺伝子の同定を試みた。
CUL5遺伝子KOでCAR-T細胞の増殖向上を発見、JAK分解抑制でpSTAT3発現亢進
網羅的に遺伝子をノックアウト(KO)し、遺伝子機能を探索するGW-CRISPR-KOスクリーニングシステムをヒトCAR-T細胞に応用した。プール化KO-CD19CAR-細胞を作成し、CD19陽性腫瘍細胞による繰り返しの抗原刺激によりCAR-T細胞をin vitroで増殖させ、その増殖前後でsgRNAのリード数を比較した。すると、CUL5遺伝子をKOすることでCD19抗原の反復刺激に対するCD19CAR-T細胞の増殖は有意に良好となった。CUL5KOによりCAR-T細胞はエフェクター・メモリー細胞分画が増加し、抗原刺激後のサイトカインの産生も有意に良好となった。遺伝子発現解析を行うとCUL5KO-CAR-T細胞は従来のCAR-T細胞と比較してJAK-STATシグナル経路の遺伝子発現亢進を認めた。
さらに、B細胞腫瘍を持つNOGマウスにCUL5KO-CD19CAR-T細胞の投与を行ったところ、従来のCAR-T細胞と比較して有意に生存期間を延長させた。CUL5KO-CD19CAR-T細胞では腫瘍と反応後リン酸化STAT3の発現が亢進しており、CUL5ノックダウンKHYG-1細胞では、リン酸化JAK1とリン酸化JAK3の発現が亢進していた。CUL5はユビキチンE3リガーゼであるため、CUL5KO-CD19CAR-T細胞ではJAKタンパク質の分解が妨げられ、pSTAT3の発現が亢進したことが示唆された。
CUL5KD-CD19CAR-T細胞はマウスの腫瘍モデルでも皮下腫瘍の増殖を有意に抑制
CUL5KO-CD19CAR-T細胞の作成には、電気穿孔法が必要だが、その毒性や十分な細胞数が確保できないことから臨床応用は困難だ。そのため研究グループは、CD19CARにCUL5のShort hairpin RNA(shRNA)をつないだレンチウイルスプラスミドを作成し、すでに製品化されているCAR-T細胞作成と同様の1回のレンチウイルスベクター遺伝子導入法によるCUL5ノックダウン(KD)-CD19CAR-T細胞の作成を試みた。
その結果、CUL5KD-CD19CAR-T細胞は、in vitroで極めて増殖能力が高く、in vivoにおけるマウスの腫瘍モデルにおいても皮下腫瘍の増殖をコントロールと比べ、有意に抑制した。これらの知見については特許出願を行っている。
治療効果が乏しい固形がんに対するCAR-T細胞療法も治療効果改善の可能性
CAR-T細胞においてCUL5の機能を明らかにし、CUL5の機能欠損がCD19CART細胞療法の増殖を高めることが示された。CUL5KD-CD19CAR-T細胞は、従来のCD19CAR-T細胞の製造工程と同様に簡便に製造可能であり、B細胞リンパ腫患者の寛解を持続させ、生存期間を延長させる可能性がある。
「さらに、現在は治療効果が乏しい固形がんに対するCAR-T細胞療法にも同様の治療効果改善が見られる可能性があり、他の標的抗原に対するCAR-T細胞にも応用するため、研究開発を継続している」と、研究グループは述べている。
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