C型肝炎ウイルス感染リスクとして知られるPWIDやMSM、日本における実態調査は不十分
広島大学は12月9日、HCV患者の血清を用いてHCV塩基配列を決定し、系統樹解析によりHCV感染伝播経路を考察したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科疫学・疾病制御学のZayar Phyo(ゼイヤーピョウ)氏(博士課程後期)、KoKo(ココ)助教、杉山文講師、田中純子特任教授、国立病院機構大阪医療センターの田中聡司医師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hepatology Research」に掲載されている。
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C型肝炎ウイルス(HCV)は慢性肝疾患を引き起こす疾患で、その感染経路としては、輸血や医療行為、注射針の共有を伴う薬物乱用(People who inject drugs、PWID)や、性交渉(特に男性間性交渉Men who have sex with men、MSM)が広く知られている。WHOのデータによると、世界的にみれば近年のHCVの感染経路はPWIDが主流であることがわかっている。
日本の肝炎対策は、全国規模の検査実施、医療費助成制度、直接作用型抗ウイルス薬の普及などにより、早期発見と治療が進み、一般人口におけるHCV罹患率は0.4/10万人年と非常に低い水準に抑えられている。しかし、国立感染症研究所の報告によると、依然として一定数の新規感染が確認されており、感染源の特定と効果的な対策が今後の課題となっている。
世界保健機関(WHO)は、2030年までにC型肝炎ウイルス(HCV)を排除するという目標を掲げている。新規感染予防対策として、世界的に特に重要視されているのはPWID(注射薬物使用者)である。しかしながら日本におけるPWID集団でのHCV伝播に関する疫学的な状況は十分に解明されていない。
感染者115人の保存血清を用い、HCV塩基配列分析を実施
今回の研究では、PWIDとMSMを含めたHCVの感染伝播の実態を明らかにするため、2010年1月から2023年9月までに国立病院機構大阪医療センター消化器内科を受診したHCV感染者の保存血清を用いて調査を行った。
PWIDまたはMSM、またはその両方に該当するHCV患者は全例リクルートし、いずれにも該当しないHCV患者については、44人を無作為に選び、合計115人のHCV治療開始前の血清試料および臨床情報を収集した(2022年6月以降の受診者には文書で研究参加同意を得て、2022年5月以前の受診者にはオプトアウト手続きにより保存血清を使用した)。115人のHCV感染患者を、「MSMかつPWID」群(15人)、「非MSMかつPWID」群(31人)、「MSMかつ非PWID」群(25人)、「非MSMかつ非PWID」群(44人)の4群に分類し、HCV塩基配列を分析した。
MSM含む群は薬物乱用歴の有無に関わらず高い塩基配列類似性を示す
その結果、「非MSMかつPWID」群で優勢な遺伝子型は2a(58%)であり、「MSMかつPWID」群、「MSMかつ非PWID」群、「非MSMかつ非PWID」群ではいずれも遺伝子型1bが優勢だった(それぞれ79%、64%、68%)。
系統樹解析の結果、「MSMかつPWID」群および「MSMかつ非PWID」群のHCV株は、全コア領域およびNS5B領域ともに94.75~100%の塩基配列類似性を示したが、「非MSMかつPWID」群および「非MSMかつ非PWID」群のHCV株は明確に区別された。以上より、男性間性交渉を介して薬物乱用歴の有無を超えて感染が伝播している可能性が示唆された。
今回の検討により、日本におけるPWID集団でのHCV伝播に関する新たな疫学的知見が得られた。「今後も症例を継続的に登録し、さらに詳細な検討を進めていく予定」と、研究グループは述べている。
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・広島大学 研究成果