学習前運動による長期記憶向上効果、最長1週間までしか示されておらず
北海道教育大学は12月4日、中強度の運動後に記憶学習をし、その後11か月後までの記憶保持に対する影響を調査した結果を発表した。この研究は、同大岩見沢校の森田憲輝教授、神戸大学の石原暢准教授、米Northeastern University のCharles Hillman、中京大学の紙上敬太氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Science and Medicine in Sport」に掲載されている。
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ある時点で経験したことや学習したことなどの情報を数分から数十分、そして数年以上の期間保持する脳機能のことを長期記憶(エピソード記憶)と呼ぶ。長期記憶として記憶した情報は、時間と共に忘却していき、1か月後では20%ほどしか残らないとされている。この結果は1885年に心理学者エビングハウスが示したものだ。一方で、運動後に学習すると長期記憶が向上することが知られており、これまでの研究では1回の運動で最長1週間ほど長期記憶の向上が認められたことが示されている。しかし、これまでに学習前の運動による長期記憶向上の効果が、どのくらいの期間持続するのかについては検討されていなかった。
健康な大学生44人対象、20分間の運動または座位安静条件でテスト実施
そこで今回は、学習前の運動による長期記憶向上の効果が、どのくらいの期間持続するのか研究を行った。今回の研究によって、運動後の長期記憶向上に持続的な効果が示されれば、学校での学習や職場そして日常生活において運動の効果的な利用を勧めることができるのではないかと研究グループは考えた。
今回の研究の参加者は健康な大学生44人。実験にはクロスオーバー法を用いた被験者内比較対照実験という研究デザインを用いた。実験参加者はランダムな順序で運動条件と座位安静条件を実施した。運動条件では、20分間の中強度サイクリング運動(最大予備心拍数の50%強度)を実施し、座位安静条件では実験室で20分間の座位安静(スマートフォンの操作や読書等も禁止)とした。その後、15個の単語を声に出して読み上げ、その後覚えた単語を1分間でできるだけ多く書き出すテスト(単語思い出しテスト)を5セット実施した。その後、24時間後、4週間後、6週間後、8週間後そして11か月後にも、2つの条件で学習した単語の思い出しテストを参加者に実施してもらい、両条件で記憶した単語の正答数を比較した。
運動条件のテスト正答数、6週間後は10%増、8週間後は8%増
今回の研究では、記憶学習の直後に思い出した単語の最大正答数は、条件間で差がなかった(学習直後での最大正答数:運動条件12.9±1.9個、座位安静条件12.7±2.3個)。そのため、記憶学習の直後には運動の影響がないといえる。その後の単語思い出しテストの正答数は、24時間後では運動条件と安静条件間に差が見られず、4週間後では運動条件のほうがわずかに正答数は多かったものの統計学的な差は認められなかった。一方、6週間後と8週間後時点での単語思い出しテストでの正答数は、6週間後では運動条件のほうが1.5個多く(約10%増加)、8週間後では運動条件のほうが1.2個多く(約8%増加)なっており、学習前の運動が学習内容の長期的な定着(長期記憶)を強化することを示した。
これらの結果は、学習前の運動が長期記憶を強化し、その持続効果が少なくとも8週間後まで持続したことを明示している。このように、これまで最長で1週間までしか示されていなかった運動による長期記憶向上効果が、より長期に及ぶことが明らかになった。
子ども・社会人世代の学習効果を高める取り組みに向け、研究発展に期待
今回の研究での実験対象は健康な大学生であったが、子ども世代や社会人世代が学校や職場での学習効果を高める取り組みに応用できるよう、今後の研究の発展が期待される。また今後は、運動が長期記憶をどのように持続的に向上させるかのメカニズムを解明することで、ヒトの長期記憶の仕組みのさらなる理解につながる可能性もあり、多方面への発展が期待できる、と研究グループは述べている。
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・北海道教育大学 プレスリリース