PSF増加のホルモン療法無効のがん増殖を抑制する小分子を既報告、最適化を実施
東京都健康長寿医療センターは12月6日、ホルモン療法が効かなくなった乳がんおよび前立腺がんに対する新しい治療戦略を明らかにしたと発表した。この研究は、同センター老化機構研究チームシステム加齢医学研究の井上聡研究部長、高山賢一専門副部長、理化学研究所らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Cancer Therapeutics」オンライン版に掲載されている。
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前立腺がんおよび乳がんは、欧米および日本においてそれぞれ男性および女性がかかるがん種として最も患者数が多く、健康長寿を損ねることで有名だ。これらのがんに対してはおおむね男性ホルモンや女性ホルモン作用を抑えるホルモン療法を行うが、治療を継続すると薬剤や各種療法が効かなくなり、再発、難治化する。その結果、がんによる死亡者数も国内でそれぞれ1万人以上となっていることが大きな課題となっている。
研究グループではこれまでにホルモン療法の効かない前立腺がんや乳がん細胞において、RNAに結合するタンパク質PSFが、がん細胞内での遺伝子の発現や成熟を制御すること、さらに、その働きを止める治療薬候補(小分子)を見出していた。この小分子は PSF の増加しているホルモン療法の効かないがん細胞の増殖や実験動物内での腫瘍の増殖を抑える働きがあり、薬に応用できることも報告してきた。今回の研究では、その小分子の構造を最適化することで、さらにがん細胞の増殖を抑制する機能を高めることに成功した。
最適化された小分子、p53変異がん細胞のPSFを抑制しp53機能回復を促す
がんの発生や抑制を制御するタンパク質「p53」は、がん組織においてがんの発症に伴い最も突然変異を生じるタンパク質として知られている。さまざまながんの悪性化において「p53の変異による機能不全」は大きな要因といわれている。今回、最適化された小分子を用いて、p53の変異したがん細胞のPSFの働きを抑制すると、p53の機能回復を確認した。
さらに、さまざまな検討を加えた結果、PSFには新たな局面でp53タンパク質によりコントロールされている機能を抑制する作用があること、PSFを抑制することでp53の機能を回復させ、がん細胞の死滅を誘導することを見出した。
幅広いがん種で治療に応用できる可能性
これまでp53変異のがんは治療に抵抗することが問題となっており、その治療戦略を考えることが大きな課題となっていた。研究によりPSFを標的とすることがp53の変異したがんへの新たな治療法開発につながることが示された。
「今回改良された薬剤候補分子はがんに対する治療法の確立に寄与することが考えられる。研究では前立腺がん、乳がんモデルへの治療効果を示したが p53の変異はさまざまながんの悪性化に結びつくこと、近年の研究でPSFがさまざまながん種において治療抵抗性に関与することが報告されており、他のがん治療にも応用できる可能性がある」と、研究グループは述べている。
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