健康診断などの限られた記録時間の心電図検査だけでは「心房細動」の発見は困難
京都府立医科大学は12月5日、60歳以上の降圧治療中の高血圧患者における未診断の心房細動(隠れ心房細動)の検出率を解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科 不整脈先進医療学講座の妹尾恵太郎准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Thrombosis and Haemostasis」に掲載されている。
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心房細動は不整脈の一種で、心房が細かく痙攣し、心臓が血液をうまく送り出せなくなり、心房内に血の塊である血栓が生じやすくなる病気。動悸や息切れ、疲れやすさなどの自覚症状が出て日常生活に支障をきたすだけでなく、治療をせずに放置すると心原性脳塞栓症や心不全などの重篤な循環器イベントを引き起こすリスクがある。また、心房細動は約4割が症状のない無症候性であり、痙攣発作がたまにしか生じない発作性タイプも多く、健康診断や通常診療における限られた記録時間の心電図検査だけでは発見が困難な病気だ。
そこで研究グループは今回、家庭で心電図を記録できる機器を用いて、60歳以上の降圧治療中の高血圧患者における隠れ心房細動の検出率を評価することを目的として研究を行った。
3か月の測定期間中に心房細動の可能性が1回以上検出されたのは4割以上
研究は、60歳以上かつ高血圧の既往歴があり降圧薬を服用している4,078人を対象に、2022年の4月~2023年の7月まで実施した。参加者は3か月間、オムロンヘルスケア株式会社の心電計付き上腕式血圧計を用いて、毎日家庭で起床後と就寝前の血圧測定と心電図記録(1機会あたり各2回測定)を同時に行った。
データの有効性が確認された3,820人のうち、3か月間の測定期間中に機器に対応した心電解析アルゴリズムにより「心房細動の可能性」の通知が1回以上検出された被験者は1,682人だった。
専門家の判読で5.8%が隠れ心房細動と判明、記録期間が長いほど検出率上昇
「心房細動の可能性」として検出された全ての心電波形(30秒間のⅠ誘導心電波形)を不整脈専門医が判読した結果、220人が隠れ心房細動であることが確認された(検出率:5.8%)。家庭での心電記録期間が1か月時点での検出率は約3.1%、2か月時点での検出率は約4.7%であり、家庭での心電記録期間が長くなるほど隠れ心房細動の検出率が上昇することも確認できた。
高齢ほど隠れ心房細動の可能性「高」、血圧レベル間での検出率有意差「無」
さらに、高齢であるほど隠れ心房細動である可能性が高く、60~64歳に比べて、65~74歳では隠れ心房細動のリスクが1.93倍、75歳以上では2.40倍であることが示された。また、男性は女性と比較して2.04倍、隠れ心房細動の可能性が高いことも示された。
試験開始時の家庭血圧レベルにより4グループ(「SBP≤134 and DBP≤84」「SBP 135-144 and / or DBP 85-89」「SBP 145-159 and/or DBP 90-99」「SBP ≥160 and/or DBP≥100」)に層別して解析した結果、血圧レベル間で隠れ心房細動の検出率に有意な差は認められず、治療中の高血圧患者においては血圧のコントロール状況によらず、隠れ心房細動のリスクは同等であることが示唆された。
家庭での心電図記録が、心房細動の早期検出につながる可能性
心房細動と高血圧には高い関連があるとされており、研究グループとオムロンヘルスケアが行った先行研究において、65歳以上の一般住民を対象とした隠れ心房細動のスクリーニング調査では、高血圧の人は高血圧でない人に比べて約3倍、心房細動が潜んでいることがわかっている。また、日本国内には高血圧の人は約4300万人いると言われており、60歳以上では約3000万人が高血圧であると推計される。
「家庭での継続的な血圧測定とあわせて心電図記録を行うことが、循環器イベントの発症リスクとなる心房細動をより早期に検出し、循環器イベントの発症予防につながると期待できる」と、研究グループは述べている。
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