どのような患者にCTLA4-IgまたはTNF阻害薬が適しているのか検証
広島大学は12月2日、HAQ-DIスコアが高い関節リウマチ患者では、抗CCP抗体値がCTLA4-IgおよびTNF阻害薬の有効性に影響を及ぼすことが明らかにしたと発表した。この研究は、同大病院リウマチ・膠原病学の小林弘樹医師(大学院生、クリニカルスタッフ)、平田信太郎教授らのグループと、産業医科大学第1内科学講座(田中良哉教授)との共同研究によるもの。研究成果は、「Rheumatology」に掲載されている。
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生物学的製剤とは、遺伝子組み換え技術を応用して、特定の標的分子を特異的に認識する抗体や受容体を改変した医薬品。関節リウマチ患者に対して1剤目の分子標的薬として、どのような患者にどのような生物学的製剤が適しているかは明らかになっていない。そこで研究グループは今回、CTLA4-IgとTNF阻害薬に注目し、どのような患者にCTLA4-IgあるいはTNF阻害薬が適しているかを明らかにすることを目的とした。なお、CTLA4-Igは、関節リウマチにおけるT細胞の過剰な活性化を抑制するために開発された生物学的製剤の一つ。現在使用できるCTLA4-Ig製剤はアバタセプトだ。TNF阻害薬は、腫瘍壊死因子(TNF)という炎症を起こす物質を標的とする生物学的製剤である。
生物学的製剤未投与の関節リウマチ患者、CTLA4-Ig/TNF阻害薬で有効性に差無し
研究では、2013年7月~2022年8月までに初めて生物学的製剤による治療を受けた関節リウマチ患者953人のデータ(産業医科大学第1内科学講座で分子標的薬を導入した関節リウマチ患者のレジストリ:FIRSTレジストリ)を用いて解析を実施。実臨床でのCTLA4-IgとTNF阻害薬の有効性と安全性を比較し、どのような患者にそれぞれの薬剤が適しているかを明らかにした。また、薬剤間の選択バイアスを最小限に抑えるためにPS-IPTW(傾向スコアを用いた逆確率重み付け法)を用いた。
結果、生物学的製剤未投与の関節リウマチ患者ではCTLA4-IgとTNF阻害薬で有効性に差は認めなかった。多変量ロジスティック回帰分析によって、CTLA4-IgとTNF阻害薬ともに、HAQ-DIスコアが低いことが生物学的製剤投与24週目のCDAI(関節リウマチの疾患活動性を評価する方法の一つ)寛解に寄与する因子であることが抽出された。HAQ-DIスコアは、関節リウマチ患者の身体機能障害を客観的に評価する指標。日常生活動作に関する自己記入式質問票であり、スコアは0(すべての動作が問題なくできる)~3(すべての動作がまったくできない)で示される。
また、CTLA4-Igでは、シトルリン化されたタンパク質に対する自己抗体である抗CCP抗体の値が高いことも、生物学的製剤投与24週目のCDAI寛解に寄与する因子であることが抽出された。
HAQ-DIスコア低の患者は両剤ともにCDAI寛解率高、両剤CDAI寛解率に差無し
HAQ-DIスコアが低い患者は、CTLA4-IgおよびTNF阻害薬ともにHAQ-DIスコアが高い患者よりもCDAI寛解率が高く、両薬剤でCDAI寛解率に差はなかった。
一方、HAQ-DIスコアが高い患者の中で、抗CCP抗体が高値の患者ではCTLA4-IgのCDAI寛解率が高く、抗CCP抗体が低値の患者ではTNF阻害薬のCDAI寛解率が高いという結果になった。
患者ごとの特性に応じた治療薬選択が可能になり、早期に効果的な治療開始
治療開始前の臨床情報などから最適な分子標的薬の選択、プレシジョン・メディシンが可能となれば、分子標的薬治療による高い有効性、安全性、経済性が得られ、効率的な治療展開、医療経済改善が期待される。
「本研究成果により、患者ごとの特性に応じた治療薬の選択が可能になり、早期に効果的な治療を開始できるようになることが期待される。これにより、関節リウマチの進行を抑え、患者の生活の質を向上させることができる」と、研究グループは述べている。
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・広島大学 プレスリリース