子宮内感染症や遺伝子異常などが原因とされる小頭症、病態の全容は未解明
東北大学は12月5日、ヒトの小頭症で見られるKIF23遺伝子の変異によって脳構築が異常となる可能性があり、KIF23が小頭症を引き起こす新規の分子であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科発生発達神経科学分野のSharmin Naher助手、吉川貴子講師、大隅典子教授、同大加齢医学研究所、同大学際科学フロンティア研究所、国立精神・神経医療研究センター神経研究所、台湾国立陽明交通大学らの研究グループによるもの。研究成果は、「The EMBO Journal」にオンライン掲載されている。
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小頭症とは、新生児の頭の大きさが小さい状態のことで、脳が小さく不完全に発達したことが原因であると言われている。脳の発生は胎児期に始まり、神経幹細胞という幹細胞が分裂して増殖し、適切なタイミングで神経細胞に分化することで、脳が大きく発達していく。小頭症の原因として、子宮内感染症や遺伝子異常などが知られているが、依然として病態の全容解明には至っていない。
神経幹細胞でKif23阻害により分裂面変化し細胞分裂失敗、早期に神経細胞へ分化
研究グループは、細胞分裂に関わるモーター分子Kif23が、マウスの胎仔期において分裂する神経幹細胞の紡錘体に局在することを見出した。
Kif23の胎仔脳における機能を生体内で調べるために、子宮内電気穿孔法を用いて、神経幹細胞内でKif23の機能阻害を行った。その結果、神経幹細胞の分裂面が垂直面(対称分裂)から水平面(非対称分裂)へと変化し、早期に神経細胞へと分化することがわかった。また細胞分裂に失敗して神経細胞へと分化した細胞は、細胞死(アポトーシス)へと向かうことが示唆された。
KIF23機能阻害による異常な神経細胞分化、ヒト小頭症変異型KIF23では十分に回復できない
ヒトの小頭症患者で見つかったKIF23遺伝子の変異が、小頭症を引き起こす原因であるかを調べるために、Kif23機能阻害マウスにおいて、ヒト正常型KIF23とヒト小頭症変異型KIF23を、神経幹細胞内に強制的に発現させた。この実験系により、正常型KIF23は、KIF23機能阻害による異常な神経細胞分化を回復することができたが、ヒト小頭症変異型KIF23では十分な回復が認められなかった。この結果から、KIF23の遺伝子変異が、適切な脳の発生発達を妨げ、小頭症の原因となっている可能性が示唆された。
小頭症の治療標的としての可能性に期待
この研究は、これまで培養下の細胞でしか機能がわかっていなかったKif23について、生体の胎仔期での新規機能を発見し、ヒトのKIF23遺伝子の特定の変異が小頭症の原因となることを明らかにした。「現在、小頭症の治療法は確立されておらず、治療困難な疾患への遺伝子治療がより発展すれば、小頭症の治療の標的として役立つことが期待される」と、研究グループは述べている。
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